重松清著 『カシオペアの丘で』





 

              2008-8-25


(作品は、重松清著 『カシオペアの丘で』(上)、(下) 講談社による。)

           
  

 2002年7月から2004年1月にわたり、山陽新聞、信濃毎日新聞、京都新聞、愛媛新聞ほか全十二紙に掲載されたものを全面的に改稿した作品。
 2007年(平成19年)7月刊行。

 重松清:

 1963年岡山県生まれ。早稲田大学教育学部卒業。出版社勤務を経て執筆活動にはいる。

  

主な登場人物:


浜田敏彦
(トシ)

市役所の福祉課勤務で、季節ではカシオペアの丘で遊園地の園長として車椅子の生活をしている。父親は炭鉱事故で亡くなり、車椅子の生活は、小学五年生の時の“決闘”がもとで崖から墜落した事故が原因であった。

浜田美智子
(ミッチョ)

浜田敏彦の妻。東京の大学にいるときはシュン、ユウとも交わり、シュンとの秘密を持ちながら、やがて北都に還り、敏彦と結婚し、小学校の教師をしている。

柴田(倉田)俊介
(シュン)

北都では名士の「倉田」の家を飛び出し、東京暮らしの39歳。恵理と結婚し、哲生という小学4年生の子供が居る。検査で進行性の肺ガンと診断され、後に残す家族のことやトシ、ミッチョらへの謝罪に苦しむ。また、祖父の倉田千太郎を許すことが出来ないでいる。

高橋雄司
(ユウ)

今はテレビの(下請けの制作プロダクションの)ディレクター。

おせっかいやで面倒味がよく、心優しい男。

神内美唄
(ミウ)

タウン誌の編集者。北都の歴史(炭鉱で栄え、昭和42年の事故で閉山に追い込まれた。)に関心を持ち、美智子に北都の案内を依頼する。
川原隆史 妻典子と真由の幸せな三人家族であったが、真由が駐車場の屋上から突き落とされる事故で亡くなり、妻の不倫も発覚し家庭崩壊に追い込まれる。

倉田健一
(ケン)

シュンの兄。倉田家を継ぎ、社長として3年、倉田千太郎や先代の社長を支えてきた古参たちから急速に世代交代を進め、会社を切り盛りしている。

小説の概要:

 北海道北都、小学4年生の時、幼馴染み4人(トシ、シュン、ミッチョ、ユウ)でカシオペアの丘と名付けた広場で夜空の星を眺めながら、ここにメリーゴーランドのある遊園地を創りたいと願った。その後トシを残し三人は離ればなれになるが、東京に出た三人は再会。その後大人になった四人のそれぞれの運命は・・・。
 
やがて故郷北都のカシオペアの丘の遊園地で再会を果たし・・・。


読後感
 

 各章の語り手が敏彦、美智子、俊介と入れ替わり、それぞれの立場で心情を語りかけている。展開もミステリーじみたところもあり、幼い頃のこと、地元北都の歴史、東京の学生時代のこと、友達のこと、家庭の幸せ、人生の無残なできごと、生きることの難しさ、悲しさ、後悔、そして許すことの難しさ、許されたいとの思い、などが織り込まれていて、涙することもしばしば。ティッシュが欠かせない。

 幼馴染みっていいもんだと思わせる表現があちこちにあり、暖かい気持ちと生きることへの勇気、優しさのすばらしさを教えてくれる。久しぶりに身近な感覚が蘇ってきた。感動作品である。

 第三者の存在が直接の当事者の間にいると緩衝材というか悩みを吐露し、理解して貰うことで気持ちが落ち着くということがあるものだ。そんな存在が雄司であり、奥野先生であり、時にはミウさんであり、川原さんでもある。ミウさんも、川原さんも両者とも別の荷物をしょっているけれども。特に幼友達である雄司の存在は最大の幸運としか言いようがない。こんな友達が側にいてくれたら、どんなに人生は幸せなことだろう。決して優等生ではなく、お節介で、おっちょこちょいなところもあり、気遣いが行き届いて人の悲しみを理解し、それとなく支えてくれる。でも決して自分は幸福とは縁が薄い感じ、だからこそ人の面倒が見れるのかも知れない。人間が大きいというか、懐が深いというか。自分がこんな人間になれたらどんなにいいことか。


印象に残る場面:

◇雄司が俊介に電話での会話: 上巻

川原さんが事件のことで落ち込んで、仕事にも行けない状態で、本人はもはや仕事に戻る気力もなさそうなことを告げ、

「だから今ずっと誘ってるんだ。カシオペアの丘へ行こう―――」・・・

「俺は思うんだけどな、人間は前ばっかり向いてるわけにはいかないんだよ。下を向いたり後ろを振り返ったりするのが人間だと思うんだ」「それはわかるけど・・・わざわざつらくなる思い出を振り返ることはないだろう」「振り返らなきゃいけない思い出なんだ、戻らなきゃいけない場所なんだよ、カシオペアの丘は」

(補足:真由ちゃんが殺害される前、親子三人でカシオペアの丘の遊園地で幸せな時を過ごした思い出がある。)


◇ミウが美智子から倉田千太郎が炭鉱事故で生き埋めの七人を犠牲にして構内に注水を断行し、北都観音を建立し、体内に神さんや仏像を集めている実態を案内されて後、美智子に言った言葉

「わたしはけっこう好きです」「いまは好きかどうかわからないけど、好きになってあげたいと思ってます」とつづけて、服の袖で濡れた顔をぬぐい、「わたし、誰かに謝りつづけるひとって好きなんです」と付け加えた。「・・・謝ってるかどうか、わかんないけどね」「でも・・・ゆるしてあげてほしいなって思います、わたし」

(補足:でもこんな言葉を吐かせるミウにはそれだけの過去があった。(下巻参照))


  

余談:

 ふつう上巻下巻に別れた小説というのは、えてして上巻で感情が盛りあがり、下巻になって失速するか、だらだらと終わってしまうことがあるが、この作品は最後まで緊張感やら、期待感やらで一気に読んでしまった。

 

背景画は、カシオペアの星座フォトより。

                    

                          

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