重松 清著 『ビダミンF』



 

              2012-05-25



 本作品は重松清著 「ビタミンF」      新潮社 による。

                 
  

 

発表誌 ゲンコツ   「小説新潮」2000年5月号
    はずれくじ  「小説新潮」2000年3月号
    パンドラ   「小説新潮」2000年2月号
    セッちゃん(「身代わり雛」改題) 「小説新潮」1999年3月号
    なぎさホテル 「小説新潮」2000年6月号
    かさぶたまぶた 「小説新潮」2000年4月号
    母帰る    「小説新潮」2000年7月号

 本書 2000年(平成年)8月刊行。 直木賞受賞作品。

 重松清:

 1963年岡山県生まれ。早稲田大学教育学部卒業。出版社勤務を経て執筆活動にはいる。

  

物語の概要 図書館の紹介より

「ビタミンF」は家族(Family)の物語(Fiction)から生まれる“こころのビタミン”。7つの家族の物語が、あなたにも新たな元気を運びます。 山本周五郎賞作家が放つ超傑作短篇集。

主な登場人物:


<ゲンコツ> マンションの下に住む岡田さんちの息子達が夜自販機の前でたむろ。注意をするか? 雅夫の取った行動は・・・。

加藤雅夫
妻 恵子
長男 博人
次男 和人
・隣人
(2Fの住人)
岡田さん
息子 洋輔

雅夫 ニュータウンの9階建てマンションの7Fに住む、38歳。
入社16年の自販機メーカーの営業課主任。
博人 小学5年生、和人 小学2年生。

岡田さん 今年自治会の会長、雅夫は防犯委員。
岡田洋輔 中学3年生,去年の夏頃から急に不良じみる。

<はずれくじ> 妻が入院、一人息子と二人になって思うことは・・・息子に気疲れ。警察から電話が入る。

野島修一

妻 淳子

息子 勇樹

修一 営業二課の係長、
修一の父親は小さな町で役場務めをしていた。無口で真面目、賭け事もせず、趣味もナシ。 ただ宝くじを一枚買い続けていた。
妻の淳子 腎臓結石で1週間ほど入院中。
勇樹 中学1年、気が弱く臆病で心配性。

<パンドラ> 娘の菜穂美が万引きで補導される。 孝夫は父親としてどんな態度を取るべきか? 昔の美由紀とのことを思い返して・・。 友人の言葉「逃げ場所にはするなよな、思い出を」「思い出って玉手箱みたいなものだから、開けないほうがいいんだよな」
孝夫
妻 陽子
娘 菜穂美
息子 晃司

会社勤めの40歳。
菜穂美 中学2年生。高校中退のヒデという先輩と付き合っている。
晃司 小学4年生。

<セッちゃん> セッちゃんという転校生が苛められているというが、運動会の日に両親が見たみた実態は?

父親 高木雄介
母親 和美
娘  加奈子

家庭は素直に育ってくれた娘と穏やかで波風の立たない暮らしに雄介は満足。
加奈子 中学2年生、素直で明るくて積極的な子供。

<なぎさホテルにて> 妻が嫌いになったわけではないが俺の人生は俺の求めていた人生だったのか。「これが最後の家族旅行になるかも」。17年前の、有希枝とこの<なぎさホテル>で未来ポストの手紙の約束をしたことを実行して起きる結末は?

夫 辰也
妻 久美子
息子 俊介
娘 麻実
・有希枝

二十歳の誕生日を過ごしたこのホテルで今夜12時、37歳の誕生日を迎える。
久しぶりに家族で家族旅行に。
俊介は小学2年生、麻実は幼稚園の年長組。

<かさぶたまぶた> 私立中学に合格したばかりの優香が落ち込んでいる。 卒業記念に学校に出す自画像が描けない。 会社の慰労会で後輩から言われた言葉が真実をついていた。

夫 政彦
妻 綾子
子供たち
兄 秀明
妹 優香

政彦 広告代理店の企画部で20年余りイベントを手がけてきた、40代半ば。
秀明 大学受験に失敗、浪人中。のんびり屋の楽天家。
優香 私立中学に合格したばかりの小学6年生。
   何かに悩んでいる。

<母帰る> 10年来一人暮らしの父親が、家を出ていって今は一人暮らしになった母親とまた暮らせないかと姉に声をかけてくる。

僕 拓巳(たくみ)
妻 百合
娘姉 志穂
娘妹 彩花
父親
僕の姉 和恵
姉の子 翔馬(しょうま)

大学受験を理由にふるさとを出て以後東京在住の長男。 平凡ながら円満家族でいる。
志穂 小学3年生、彩花 小学1年生。
父親 今年で72歳、地場でセメント工場に勤務の無口で愛想の悪い勤勉な人間。
母親は10年前、僕が百合と結婚した後、突然家を出て行って、父の同い年の中村さんと暮らしはじめる。 今年の夏中村さん亡くなりひとりに。
姉は離婚(夫 浜野)して、翔馬と暮らしている。


読後感  

 それぞれの短編が家族の中に起きる様々な波風をとらえて描写し最終的には何らかの落とし前をつけてさわやかに終わるそんな物語である。
 最初の数編を読みながら、 ちょっと直木賞作品?と思ったりも。
 中で “セッちゃん” は一気に読み進んでしまった。 やはりごく身近に起きそうなそしていじめに関する関心の強さが果たしてどう処置したらいいんだろうと感じてしまうからか。

 明るく積極的な娘加奈子が家に帰ってきて学校であったことを何でも話す。 そしてセッちゃんという転校生がクラスで嫌われていじめにあっている話。 嫌いなものは好きになれと言われても無理と。 果たして運動会で両親が見た加奈子のありさまは・・・。

 親(特に父親)ならこんな時どう対処するのがいいのかと思いながら読み進むうちにやはり正面から受け止め、 すなおに自分をぶつけるしかないのでは?
 “かさぶたまぶた”もちょっと似たような展開ではあったが、 ひとりで落ち込んでしまっている小学6年の娘優香が強くてカッコいい父親に知られることを嫌う姿がいじらしい。

 どうも父親に話せないのは父親自身が正義感が強かったり、いいカッコしいだったり、 大人として無理して振る舞ったりすることではないのか、 もっとじのまま本音で向き合うのが・・・。 そしてそこには愛情というスパイスをほどこして・・。 と考えてしまった。

 “母帰る” では古希を過ぎた父親が、 故あって10年前家を出てひとり暮らし、 共に暮らしていた伴侶が亡くなりひとりになった母親にもう一度一緒に暮らせないかと娘に連絡を取るよう頼むそんな父親にどうむかうのか?

 作品の最後の章にこんな話をもってくる、 結局全体の作品としてはなかなかのものと思ってしまっていた。 父親の「わしゃあ、33年も連れ添うた女を、一人暮らしのまま死なせとうない。 それだけじゃ」の言葉が心にしみる。

 
余談:

 物語を読んでいて感動したりおもしろいと思う作品というのは物語に感情移入してしまうものではないか、不思議なことにそんな作品は読んでいてもどんどん読み進んでしまってもうお終いかと思ってしまう。そんな作品になるべく多く出会いたいものである。

背景画は、本作品の内表紙を利用。

                    

                          

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