物語の概要:
『図書館の神様』
思い描いていた未来をあきらめて赴任した高校で、驚いたことに〈私〉は文芸部の顧問になった…。
不思議な出会いから、傷ついた心を回復していく再生の物語。 坊っちゃん文学賞作家による、書き下ろし小説登場。
『卵の緒』
家族ってなんだろう。 血の繋がらない親子を軸に、家族であること、家族になることを軽やかなタッチで描く中編小説。 第7回坊っちゃん文学賞大賞受賞作に書き下ろし1編を加えて単行本化。
主な登場人物:
『図書館の神様』
早川清(22歳)
(主人公の私)
弟 拓実(21歳)
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1年契約の高校の講師。身体はアレルギー体質で自分の体調に不安を持つも、精神は至って健康。高校時代まではバレー部で活躍、バレー部の顧問を希望したが、文学には全く興味がない文芸部の顧問に、ヤル気なし。バレー部での不祥事(?)が影を落とす。
・弟の拓実は2年浪人の大学生。身体は丈夫だったけど、精神は軟弱、でも優しい人間。
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垣内君 |
文芸部のただひとりの部員、3年生。中学の時はサッカー部にいた。 |
浅見
妻 由布子
(ゆうこ)
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清の不倫相手。ケーキ作りの名人。お菓子作り教室の講師。清は教室に通い始めて知り合う。家庭を壊すつもりはない。 |
『卵の緒』
<卵の緒> |
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鈴江育生
母親 君子
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自分は捨て子?と尋ねられ、「本当の親子の証を見せてやるか」と応じる母親君子。 母子家庭。 |
池内君 |
学校では人望もあり、勉強も出来るその子が、夏休み明けから学校に来なくなる。 育生が尋ねていくと・・・。 |
朝井秀祐(30歳) |
君子より3つ年上の母が働いている会社の上司。 朝ちゃんの 「おいしかつた、ごちそうさま」 と言う朝ちゃんのすがすがしい顔がなんともたまらないと母さん。 |
<7’s blood> |
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里村七子
母親
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高校3年生、父親はなくなり、母親と二人暮らしだったのが、七生が入ってくるが、どうしても可愛いと思えない。
母親は太っ腹、七生が来て5日目、突然倒れて入院生活。
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山本七生 |
里村の父親の愛人の子。小6。 母親は傷害事件を起こし刑務所に。 里村の母親が預かる。 |
野沢 |
七子の同級生、付き合って1年以上、教育大を目指し、陽気で明るいだけが取り柄の男の子と思っている。 |
読後感:
『図書館の神様』
きっかけは三浦しをんのエッセイ「三四郎はそれから門を出た」にあった作品の中で食指が動いたもの。瀬尾まいこの作品は以前2冊ほど載せている。振り返ってみて当時のことを思い出しながら読んだ。
文芸部での垣内君と顧問の関係というよりも、垣内君の人となり、文学に関わっている時の幸せぶりが、次第に私の感じ方、先生としての立ち位置、文学に対する興味、そして浅見という愛人からの決別を引き出させてくれたようなもので、読んだ後の爽やか感がいい。
また優しい弟の拓実とのやりとりも姉弟のうらやましさを感じるほどの心地よいものである。
『卵の緒』
きっかけは最近読んだ作品「図書館の神様」を読み、デビュー作品の「卵の緒」を読んでみたくなる。
「卵の緒」は坊っちゃん文学賞大賞を受賞したとおり、小学4年生から6年生に至る鈴江育生の元気で汚れの知らない少年の心とそれをはぐくんでいる母親君子の懐の深い、おおらかさにほんのりと暖かみが伝わってきて何とも言えない素敵な作品である。
そして「7’s blood」は小学6年生の愛人の子七生と二人で生活を余儀なくさせられた高3の七子の奇妙な交流を描く中で、母親の存在、そして友達の存在が柔らかく問題をつつんでくれる。そして最初は七生のことを「なぜかわいいと思えないんだろうか。あんなに懸命にやっているのにどうして受け止めてあげられないんだろう」と思っていた。それが七生の小さい頃からずっと周りを見てけなげに生きてきたことを理解できるとき七生がいとおしく思えるようになる。七生の母親が出所してきてお別れの時が来る場面では胸にじんとくるものがある。
◇ 印象に残る表現 :
「卵の緒」母が育生に言う言葉:
「育生、自分が好きな人が誰かを見分けるとても簡単な方法を教えてあげよっか」
・・・・
「すごーくおいしいものを食べた時に、人間は二つのことが頭に浮かぶようにできているの。一つは、ああなんておいしいの。生きててよかった。もう一つは、ああ、なんておいしいの。あの人にも食べさせたい。で、ここで食べさせたいと思うあの人こそ、今自分が一番好きな人なのよ」
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