主な登場人物:
主人公の私
(山田千鶴)
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短大を卒業して保険の営業担当で3年、契約のノルマを取れず、職場の人間関係にも疲れ、辞職願いを出して死を決意して旅に・・・。 |
田村
(民宿たむらの主人)
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3年前両親が交通事故で亡くなり、長男であるため、家や土地や船を守るため会社生活を辞め、廃屋同然の民宿を引き継いでいる。 |
久秋 |
千鶴が2年間付き合っていた恋人。律儀で優しい人。 |
読後感:
最初の部分で死を決意し遠く離れた日本海の北(山陰地方)、駅からタクシーで出来るだけ端の方へと向かう。
自殺の予兆でこれは暗い深刻な小説の予感。
時は秋、場所は木屋谷という山の中、民宿たむらでの主人との奇妙な生活、都会の喧騒やテレビもない、情報といえば新聞のみ、自然一杯の中で規則正しい生活を繰り返しつつ、田村の大雑把で、こだわりのない対応、絶えず身体を動かして仕事をしている姿を見ているうちに、楽しい毎日が過ぎていく。
千鶴の弱そうでいて持ち前のおっとりとしたところ、物怖じしない行動や言動を見ているとそんなに落ち込んでること自身不思議に思われるほどである。
でも未体験のこと(海釣り、鶏を絞める、教会で賛美歌を聴くなど)を経験し、楽しい時間を過ごしているが、やはり自分の居場所がないことを悟る。
これって以前森敦の「月山」で主人公が山村に入って一冬を過ごし、雪解けになり村を去る話を読んだが、「天国はまだ遠く」は身近でわかりやすい内容で時にユーモアのあるやりとりでバックにある問題点に対する解を引き出している。
恋人の久秋に自殺の失敗を手紙で知らせ、突然訪ねてきた後の千鶴とのやりとりもさらりとしてなんとものんびりと心がほんわかする展開である。
印象に残る場面:
◇月一回の村の飲み会に誘われ、私は酔った帰り道、車を運転する田村さん(酒は私のせいで飲まなかった)と道ばたで星を眺め、賛美歌を歌い、吉幾三の歌を大声で歌いながら・・・
でも寂しかった。 すてきなものがいくらたくさんあっても、ここには自分の居場所がない。
するべきことがここにはない。 だから悲しかった。 きっと私は自分のいるべき場所からうんと離れてしまったのだ。
そう思うと、突然心細くなった。 まだ、そんなことに気づかずにいたい。 本当のことはわからずにいたい。
だけど、私の元にも時が来ようとしていた。
・・・ 酔いはいつか醒めてしまう。
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