瀬尾まいこ 『そして、バトンは渡された』



              2022-04-25


(作品は、瀬尾まいこ著 『そして、バトンは渡された』    文藝春秋による。)
                  
          

 
 本書 2018年(平成30年)2月刊行。書き下ろし作品。

 瀬尾まいこ
(本書による)

 1974年、大阪府生まれ。 大谷女子大学国文科卒。 2001年、「卵の緒」で坊ちゃん文学賞大賞を受賞し、翌年単行本「卵の緒」で作家デビュー。 2005年「幸福な食卓」で吉川英治文学新人賞を、2009年「戸村飯店 青春100連発」で坪田譲治文学賞を受賞する。 他の作品に「図書館の神様」「優しい音楽」「音質デイズ」「僕の明日を照らして」「おしまいのデート」「僕らのごはんは明日で待っている」「あと少し、もう少し」「春、戻る」「君が夏を走らせる」等多数。

主な登場人物:

優子

おじいちゃんやおばあちゃんに育ててもらったから、地味で慎ましやか。 母親が一度、父親が二度変わっている。
小学1年の入学式でお母さんがいないことに疑問。 お父さんは大きくなったら教えると。
そして小学3年生の時梨花さんが二人目のお母さんに。
梨花さんの、私への評価は「まっすぐですてきな優しい子」。

産みの両親
水戸秀平
母親 (没)

水戸秀平:会社の課長さん。優子が小学2年生の時梨花さんを紹介。 さわやかでこまめに気を配るみんなに好かれる人。
母親:優子3才になる少し前に交通事故死。

二人目の母親

田中梨花:優子が小学3年生になる春休みに結婚、27才。
保険の営業。 気分屋で思い立ったらすぐに行動、動かずにいられない行動力ある。計画性がない、自分の思い描いたように進んでいく。
父親:水戸秀平。梨花さんは、お父さんの会社に派遣として。 お父さんより8才年下。
小学4年生の卒業の4月5日、仕事の関係でブラジルに転勤。
梨花は行かないと、離婚。 優子は梨花と日本に残る選択。

二人目の父親

泉ケ原茂雄梨花(32才)が働いている保険会社のお得意さん。小さいけど不動産会社の社長さん。 10年前に奥さんを病気で亡くす。
裕福で、懐の深さを持ち合わせ、不器用であればあるほど、私を見守ってくれている。 優子と過ごしたのは3年。
男らしくて余裕のある人。
母親:梨花 3ヶ月ほどで、何もしない生活に息苦しさを感じ、いなくなる。 でも家への出入りは続く。

三人目の父親

森宮壮介:優子が中学3年生の三学期になって、梨花が泉ケ原さんに離婚と私を引き取りたいと願い出、了解される。
東大卒、超一流企業勤務。 しょっちゅうおろおろ、たびたび利己的、つかみ所がない。
母親:梨花 たった2ヶ月で出て行く。 そして居なくなって2年・・・。
   梨花と森宮壮介は同級生。

[小学時代]

奏ちゃん(かなで)
みなちゃん

大親友。 優子のお父さんがブラジルに転勤になるとき、二人とも「ずっと三人離れないって約束しよう」と。
大家さん 梨花さんと私、お金がなくて慎ましい生活をしていたとき、白菜や大根をくれた一人暮らしの年老いた温かい人。 老人ホームに入ると言って、困ったときにと、優子に20万円のお金の入った封筒を。
[中学時代]

優子、中学1年生から三年生の三年間ピアノ漬けに。
優子がピアノが欲しいに答え、梨花さん(32歳)が穏やかで優しい島ヶ原茂雄さん(49歳)の籍に入り実現。

吉見さん 島ケ原邸の家政婦さん。きちんとした人、質素ながらも品のいい服装。 到れり尽くせりで、梨花や優子はやることがない。
[高校時代]

佐伯史奈(ふみな)
田所萌絵
(もえ)

大の仲良し
・史奈 女子バレー部のキャプテン。どこか毅然として見える。
・萌絵 派手づきで、ハッキリ物を言う。 気が強いが、友達思い。

浜坂君 そこそこ人気があり、気安く話しかける明るさとみんなを笑わせるユーモアセンスがある。軽いところ私は苦手。
早瀬賢人(けんと)君 ピアノが上手く、合唱祭での伴奏者として初めて知り、私はときめく。

矢橋さん
墨田さん

クラスで一番派手で目立つ女子。良くも悪くもはっきりと意見を言うから、二人には反感を買われないよう、みんな気を遣っていた。
脇田君 三年三組の男子、優子に告白。付き合い出す。
向井先生

三年二組の時の担任。 50過ぎのおばさん先生。
それぞれの生徒をよく見ている。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 血の繋がらない親の間をリレーされ、4回も名字が変わった森宮優子、17歳。 だが、彼女はいつも愛されていた。 身近な人が愛おしくなる優しい家族の物語。

読後感:

 主人公の<私>優子の親は、母親が二人、父親は三人と次々と変わっていく。 物語の中心はどうやら二人目の母親となる梨花さんと、三人目の父親になる森宮さんにまつわる所が<、読み所か。
 しかし、優子の両親とのつながりは、優子が3歳になる前に、交通事故死で記憶がほとんどない。 そして母親となる二人目の梨花さんとの暮らしは楽しさに溢れ、梨花さんの気分屋で、行動的で、計画性がなく、それでいて憎めない性格に、振り回されてばかり。 でも優子を思う気持ちは半端でなく悲しいくらいの姿である。

 高校時代の担任の先生が、次々と変わる親に育てられた優子に、「あなたみたいに親にたくさんの愛情を注がれている人はなかなかいない」と通知表に。
 森宮さんのキャラも捨てがたい。 東大卒、超優良企業に勤務しているのに、優子とのやりとりはしょっちゅうおろおろ、父親であろうとする姿が涙ぐましい。

 そんな森宮さんの、第2章での頑固ぶりというか、普通の父親であることの姿に、母親のいない二人暮らしでの立場が滲み出ている。
 森宮さんが優子の結婚式を前に、優子とのやり取りの言葉が胸を打つ。

「守るべきものができて強くなるとか、自分より大事なものがあるとか、歯の浮くようなセリフ、歌や映画や小説にあふれているだろう。 そういうもの、どれもおおげさだって思ってたし、いくら恋愛をしたって、全然ピンとこなかった。 だけど、優子ちゃんが来てわかったよ。 自分より大事なものがあるのは幸せだし、自分のためにできないことも子どものためならできる」

 第1章で森宮さんの奥さんである梨花さんが、一緒に住むようになって3ヶ月でいなくなり、さてどうしたのかなあと思っていたら、第2章で梨花さんの状況に驚かされる。
 島ケ原さんの父親ぶりも、一緒に暮らした期間は短かったけれど、実はその懐の深さに感銘させられる。
 とにかく、優子に関わった両親の愛情をいっぱい受けた彼女の成長ぶり、強さ、たくましさ、優しさ、どれをとっても気持ちがほっこりする物語であった。


余談1:

 梨花さんのキャラが面白い。 寂しがり屋だから一人ではいられない。 だけど、自由でいたい。結婚には向いていない人。 そんな彼女の結婚相手が次々と変化して、優子の父親の変わり方と対比してみるとおもしろい。

余談2:

 一通り読んで全体のストーリーを理解したところで、もう一度読み直してみると、これほど時間の入れ替わりがあったのが、すんなりと胸に馴染んで入ってきて、著者はさぞかし推敲を重ねて物語を紡いだのではないかと感じた。 読み返して隅々まで読みたいと思える小説もなかなかないものだと思う。 
背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
戻る