瀬尾まいこ著
              『温室デイズ』




           2014-07-25

(作品は、瀬尾まいこ著 『温室デイズ』  角川書店による。)

         

 初出 野生時代2004年8月号〜12月号。単行本化にあたり加筆訂正。
 本書 2006年(平成18年)7月刊行。

 瀬尾まいこ:(本書より)
 1974年大阪府生まれ。大谷女子大学国文科卒業。2001年「卵の緒」で坊ちゃん文学賞大賞を受賞。翌年単行本「卵の緒」でデビュー。05年「幸福な食卓」で吉川英治文学新人賞を受賞。他の著書に「図書館の神様」「天国はまだ遠く」優しい音楽「強運の持ち主」がある。

主な登場人物

中森みちる 宮前小学校6年2組、中学3年では一組の生徒。母親を早くになくし、頑固者の父親(理髪店経営)に空手を習わされる。
伊佐瞬とは家も近くで仲がよかった。正義感が強いだけに中学でいじめに合い、ひとりで苦しむ思いをすることに。
前川優子 同じく6年2組仲良し。女っぽく可愛く男子に抜群の人気があったが逆にイジメにあい、二学期隣の区に転校、中学で再びみちるたちと一緒に。優子は苦しむみちるを見ていられないと別室登校へ。
斎藤君 5年生の時担任の先生に執拗な攻撃を受け不登校に。6年では戻ってきてリーダーシップを発揮。中学では自分は有能なパシリと称して・・。
伊佐 瞬 不良の度合いがみんなと違う。父親はヤクザ。母親は妹と弟を連れ、瞬を残して東北に去る。
吉川先生 みちるや優子が中学3年の時半年間スクールサポーターとして来る。軟弱で頼りにならないがみちるの話し相手に。

物語の概要
(図書館の紹介記事より)


 
トイレでタバコが発見される。遅刻の人数が増える。これらの始まりの合図に、教師たちはまだ気づかない。私たちの学校が崩壊しつつあることを…。ふたりの少女が起こした、小さな優しい奇跡を描く青春小説。
読後感

 学校が荒れ出す始まりの合図。1章の始めにもうすぐ壊れだす兆しを警告する。その段階で教師たちが掌握し、手を打たないと次第に取り返しの付かない段階へと一気に進んでいく。そんな出だし。
 章ごとに“わたし”の対象が中森みちると前川優子と入れ替わる。いずれもいじめを受ける身の上。ごく一部の不良がいるほかその他の周りの生徒が敵になってしまう構図はよくある話。さてその解決はあるのか。

 そんな中、みちると優子二人の生徒が異なる方法でささやかな手段で風穴を開けていく。
 前川優子はお金持ち、母親の愛情もたっぷり、でも母親の子供を理解しているかどうかはあやしいけれどそれほど酷くもない。優子の対処ぶりがのびのびとしてほほえましく、いかにもおっとりタイプで笑っちゃう。
 自分がいじめをさらりと受け流し、どんどん外に向かって逃げてゆく(?)。そしてちゃっかり自分が受けるカウンセラーの方法を伊佐瞬に施すというユニークさ。

 一方のみちるは正当派らしく何とかしなくちゃと宣言するも、空振りでみんなからのイジメを受けてしまうことに。それでもめげずに我慢して学校に、教室に出ている。
 その受け皿になる何とも頼りない吉川の存在が崩れそうになる気持ちを受けとめてくれている(?)。
 中学卒業の間際の卒業記念に整備した花壇を不良仲間から守る手だてはあるのか?
 吉川先生が放った手は?みちるの放った奇抜な行動とは?果たして学校の崩壊はどうなるのか?

  

余談:

 教室でのいじめの問題、深刻ではあるが、こんな風にそれを告白でき、聞いてあげるだけでも気持ちが軽くなり、理解者がいることでも随分救われることがある気がして、大いに参考になるのでは。

背景画は、本書のラストを飾る卒業記念の花壇をイメージして。

                    

                          

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