主な登場人物:
主人公の私
(中原佐和子)
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中学2年に進級、3年で塾に通い、高校ではいろいろイヤなことを経験しながらも、次第に家族の絆、人の情けを判るように育っていく。 |
父(弘) |
教育大を卒業して地元の中学校で社会科を教える。あるとき、「父さんを辞める」といいだし、大学の薬学部にいって薬剤師の資格を取りたいと予備校のバイトをしながら受験勉強を始める。 |
母() |
家を出て和菓子屋、本屋の販売員、鍼灸院の受付のパート仕事をしている。時に食事を届けたり、家の片づけなどに出入りするが、一緒に住むことはない。 |
兄(直) |
6つ違いの兄。小さな地域ではあるが評判の天才児。独学で漢字検定、英検1級合格。大学は行かず、農業を目指す。 |
大浦勉学 |
中学3年のとき塾で知り合い、大浦は佐和子を愛し、いろいろアドバイスしたり、行動に表す。佐和子も大浦のおかげで学校のイヤなことも救われている。 |
小林ヨシコ |
直ちゃんが恋している恋人。ヨシコは他にも多数恋人を持つため、直ちゃんの方に振り向かせるため、一か八か私は直ちゃんに一計を吹き込むが・・・。 |
読後感:
4つのオムニバスからなっているのかと思ったが、それぞれが半年ほど経過して発表されたものらしく、時間は少したっているが継続した内容のものであった。最初の「幸福な朝食」でのこと、前半の描写ではいかにも幸せな家庭の風景(ただお母さんが家を出ている点を除いては)で、そのころこれとは別に読んでいた小説が重苦しいものであっただけに、ああ、こんな小説もいいものだなあと、ほんわかした気持ちに浸っていた。ところが梅雨の時期になると私(佐和子)の気分が落ち込み、吐き気を催すというあたりから、奇妙な雰囲気になってきた。
母親の家出、父親の「父を辞める」という点、私の吐き気をもよおす点など、異様なものがただよいだし、これまでの状況に変化を感じる。この家庭はやはり変な家庭だった。
著者の表現は非常に素直な表現で、ソフトにやさしいタッチで、次第に人物像が浮き上がってくるし、堅苦しくなく自然に物語の中に引き込まれていく。それに人の感情がすごく理解でき、ユーモアもあってなかなか好ましい作家と思った。
直ちゃんの生きるモットー、お母さんの思い、佐和子ちゃんの思いやり、お父さんのひたむきさ、大浦君のズバリとした物言い、小林ヨシコの表面からだけでは判別できない心根など、きわめて理想的な家族、友達でもある。それなのにこんな風になってしまうのは、哀しいことだが・・・。
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