瀬尾まいこ著  『春、戻る』
 








                2016-01-25





 (作品は、瀬尾まいこ 『春、戻る』    集英社による。)


          
 

 
初出 「小説すばる」2013年2月号〜6月号。単行本化にあたり加筆・修正を加える。
 本書  2014年(平成26年)2月刊行。


  瀬尾まいこ:(本書より)

 1974年大阪府生まれ。2001年「卵の緒」で坊っちゃん文学賞を受賞し、翌年、同作を表題作とする単行本でデビュー。05年「幸福な食卓」で吉川英治文学新人賞を、08年「戸村飯店 青春100連発」で坪田譲治文学賞を受賞。「僕の明日を照らして」「おしまいのデート」「僕らのごはんは明日で待ってる」「あと少し、もう少し」など著書多数。


主な登場人物:

望月さくら(36歳)
母親

職場を辞め、6月に結婚する。小学校の教師を1年ほどやったことがあるが、教師を辞める。何か秘密がありそう・・・。
お父さんはさくらが8歳の時亡くなっている。

すみれ
娘 さやか

3つ年下のさくらの妹。7年前に結婚。
さやかはこの春幼稚園に入園の5歳。

山田哲生(てつお)
両親

和菓子屋“春日庵”の長男。さくらより2つ年上の結婚相手。身体がごつい。口数は多くないし、垢抜けてもいない、物静かでゆったりとしている。

お兄さん(24歳) 見るからにさくらより年下の男の子。さくらのお兄ちゃんと称してさくらの前に現れ、「結婚相手を紹介して。結婚式に出し物やる」と。
小森 岡山の小学校の校長。

 物語の概要(図書館の紹介記事による)

結婚を控えたある日、私の前に兄と名乗る青年が現れた。明らかに年下の「お兄さん」は、私の結婚にあれこれ口出しを始めて…。人生で一番大切なことを教えてくれるウェディング・ストーリー。

読後感

 さくらという36歳の女性の目の前に兄さんと名乗る年下の男の子が現れる。慣れ慣れしさ、図々しさ、お構いなしの気安さで近寄ってくる。でもなんとなく人の良さそうな雰囲気が漂っていて、人を騙そうというようなものを感じさせない。さらに結婚相手の山田家の両親は元より、さくらの結婚相手の山田さんともごく自然の成り行きでお兄さん風の扱いを受ける。なんとものどかというか、ミステリアスというか。いずれ何かが起きそうな予感はするが。

 物語が展開する中、さくらにも、お兄さんにも何か秘密めいた、過去に秘めた物があるようだ。次第に結婚の時期が近づいてくると、さくらの妹のすみれさんが言う「お姉ちゃん、もしかして迷ったりする?」の言葉に結婚前の女の人の気持ちの揺れを想像させる。そしてさくらの過去のこと、どうしておにいさんがさくらのことを仔細に知っているのかなどが明らかになる。

 日常生活のごくありふれたところにある動作や言動や事象にそれらを受け取れる敏感さや感性を持ちたいものである。 

印象に残る言葉:

小森校長の言葉:
 仕事を投げ出すふがいなさに落ち込む私に、「思い描いたように生きなくたっていい。つらいのなら他の道を進んだっていいんだ。自分が幸せだと感じられることが一番なんだから」と。

余談:

 これまで「卵の緒」や「幸福な食卓」、「あと少し、もう少し」等多数の瀬尾作品を読んできたが、どの作品にも暖かさが流れていて、勇気を湧き起こさせるものを読者に与えてくれる。きっと著者自身そんな心根の作家ではないかと。落ち込んだときとかぼおっとして何もやりたくないようなときにまた瀬尾作品を読んでみたくなる。
背景画は、作品の表紙を利用。

                    

                          

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