読後感:
□『あと少し、もう少し』
主人公たちは中学駅伝に1〜6区を走る生徒たち。そして新任の美術担当の20代後半の女教師。8年間体育教師で陸上部顧問だった満田先生の後を務めることに。
それぞれの区を襷を繋ぎながらそれぞれの経歴、育ち、思い、自分の立ち位置などを綴りながら次第に駅伝での走りが展開していく。
陸上競技に関する小説は以前に読んだ佐藤多佳子著の「一瞬の風になれ」が思い出されるが、それは高校生のリレーの話。今回は中学生での駅伝の話。
それぞれの個性、団体の中での気持ちと仲間になりたい、認められたい、役に立ちたいとかそれぞれの思いが通じ合い襷を繋ぎ、能力に応じた貢献があり、果たして県大会に進める6位までの入賞が出来るのか・・・。
中でも大人の立場で思うと、全然素人で顧問になった上原先生の、性格なのか素そのものなのか分からないけれど、桝井のキッツイ一言を受け周囲の皆も固まってしまうような場面を通り越した後のジローや渡部の言葉に反応する姿、一匹狼的大田に対する図太さが光る発する言葉はなかなかどうして頼もしい教師ぶりと言わざるを得ない。
けっして押しつけがましいところもなく、謙虚そのもの、頼りなさも素のままに顧問として認められていく様子は生徒たちのもそうだがそれにも増してすがすがしい。
□『優しい音楽』
駅伝のリレーを繋ぐ「あと少し、もう少し」とがらっと異なる話に、こんな物語もつむげる作家だったんだと。そういえば今までに読んだ小説にも通じるものがあったような。
「優しい音楽」はちょっとミステリアスな部分もあり、若い人のやりとりも自然、そして家族へのやさしい思いが伝わってきてハートフルになった。
「タイムラグ」は8歳という小学3年生を預かったものの扱いに戸惑う姿が何だか自分と同じような気持ちがして身近に感じてしまった。でも次第に馴染んでいって佐菜ちゃんを通して奥さんのサツキさんの様子が想像できて平太の家族の温かさがふつふつと伝わってくるよう。そんな深雪の性格もたまらなく魅力的であった。
「がらくた効果」は二人で暮らす家庭の中に入り込んだ異物の効果。初めて二人になったとき章太郎と佐々木さんのからみが新鮮かつ共感を覚える。新しい風が入り込んでいままでの二人(章太郎とはな子)の間が新鮮に覚えるその感覚にうなずける。
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