読後感:
物語の中で、鎰屋内の出来事の展開、長屋での出来事など、何とも江戸時代の市中の雰囲気が感じされ、どういう関係で四国遍路と結びついていくのかと興味が尽きない。
栄次郎が岡っ引きを使って以茶の行動を見晴らせ、不義密通の証拠集めをさせる段階では、実際にあることと、一般に世間といわれるものが見る内容とは、乖離があることは、いつの世でも同じ。
生涯、遍路行を続け死んでいった女性俳人をデッサンしたとあるごとく、随所に挿入されている俳句から情景が浮き彫りにされる。
いつの日か四国遍路が実現出来たら、この作品のことを思い出そう。
印象に残る言葉:
◇弘法大師の「秘蔵宝鑰(ほうやく)」の一節
人の一生など、貴賤どちらにいたせ、仏の眼から眺めれば、所詮はかないもの。
生れ生れ生れ生れて生の始めに暗く、死に死に死に死んで死の終わりに冥(くら)し。
◇挿入されている俳句から
以茶は与謝蕪村に師事していた。
・ゆく秋やほころびひどき頭蛇袋(ずだぶくろ)
四国遍路をする鎰屋以茶の絶唱の句。薄汚れた経帷子(きょうかたびら)に包まれた身体を静かに夏草の中に横たえて死んでいた。村人達の手で「以茶自筆句集」は破り焼き捨てられ、奇妙にも焼け残った小さな紙灰の中の句。潮風にあおられ紺青の空にまいあがり、海に向かって飛んでいった。
・鈴の音やわれに悔いありひなまつり
わが子を偲んだ詠。
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