佐藤正午 『月の満ち欠け』



              2019-12-25


(作品は、佐藤正午著 『月の満ち欠け』    岩波書店による。)
                  
          

  本書 2017年(平成29年)4月刊行。書き下ろし作品。

 佐藤正午
(さとう・しょうご)(本書による)  

 1955年8月25日、長崎県佐世保市生まれ。1983年「永遠の1/2」で第7回昴文学賞を受賞。2015年「鳩の撃退法」(小学館、2014年)で第6回山田風太郎賞を受賞。ほかに「5」(角川文庫)、「身の上話」(光文社文庫)、「アンダーリポート/ブルー」(小学館文庫)、「小説家の四季」(岩波書店)、「小説の読み書き」(岩波新書)など。

主な登場人物:

小山内堅(つよし)
妻 梢
(こずえ)
(旧姓 藤宮)
 瑠璃

青森県八戸生まれ、大学は東京、就職先は石油元売りの中堅所。
東京支社から福岡勤務を経て千葉市原市、社宅は稲毛。
三角との出会いは当時の赴任地仙台に居た頃。妻と娘の葬儀の時。
妻と娘の死後、会社を退職し、母の面倒見るため八戸に戻る。
・妻の梢は同郷出身。大学のサークルで知り合い遠距離恋愛の末結婚。車の運転が好き。
・娘の瑠璃、稲毛時代に7歳、小学2年生に異変が起きる。
高校卒業後、三角哲彦に、会って話があると。母親と仙台から東京に向かう途中、トンネル内の追突事故で母娘共即死。
仙台に居た高校時代、美術部員で油絵を残していた。
その肖像画の顔は三角哲彦。(二代目の瑠璃)

三角哲彦(あきひこ)
三角典子
(みすみ・のりこ)

三角典子の弟、6つ違い。八戸出身で小山内の高校時代の8年後輩。大手ゼネコンの総務部長。
学生時代高田馬場のレンタルビデオ店でバイト。そこで正木瑠璃と出会い、お互い惹かれることに。
小山内の母娘の葬儀の他二度小山内と会い、小山内瑠理のことで話があると・・・。
・典子 小山内の妻梢(旧姓 藤宮)の中学・高校を通じての友人。

正木瑠璃
(旧姓 奈良岡)

煙草屋さんで働いていたとき、会社の先輩(八重樫)と来た正木竜之介の強引な誘いに負け、結婚。夫の自己満足、執念深い性質を体感、夫の忙しさもあり、次第に遠縁に。
地下鉄の電車にひかれて27歳で死ぬ。(初代の瑠璃)

正木竜之介

小山内より5年早く千葉県船橋市に生まれる。大学卒業後大手工務店に就職、一級建築士の資格を取得。結婚。
先輩の八重樫の自殺、その遺書に怒り、妻の死、その時に残されたメッセージに、正木竜之介の人生は変わった。

小沼

 希美(のぞみ)

小沼工務店の3代目社長。荒んでいた正木竜之介を雇い、竜之介は社長の片腕として活躍するまでに。
・奥さん 元小学校教員。稲毛の小学校に赴任したとき小山内瑠理の担任。
・希美 小山内瑠理が死んだ年に希美は生まれた。正木竜之介に懐くが、途中で避けるように。秘密として母親は最初”ルリ(瑠璃)”と名前を付けたかったらしいと。二度目の行方不明を起こし、正木竜之介に会いに行き「ミスミアキヒコ」を探して欲しいと。
正木竜之介によって引き起こされた忌まわしい事件で不慮の死を・・。(三代目の瑠璃)

緑坂ゆい
 るり

小山内瑠璃の、仙台での高校時代の親友。プロの女優となる。
小山内に生まれ変わりの話をしに。
・娘 るり(四代目の瑠璃)7歳の小学生で名古屋支社にいる三角哲彦にひとりで会いに行く。

荒谷清美
娘 みずき

八戸在住、小山内の父親が亡くなった後、母親が頼りにする。
・みずき 三角哲彦とは知り合い。小山内堅に三角を会わせる。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 この娘が、いまは亡き我が子?いまは亡き妻?いまは亡き恋人?そうでないなら、はたしてこの子は何者なのか。欠けていた月が満ちるとき、喪われた愛が甦る。3人の男と1人の少女の人生が交錯し、幾重にも織り込まれてゆく数奇なる愛の軌跡。

読後感:

 少女が突然変化を遂げる。親は何かあったのか驚くと共に記憶をたどりながら、その真相に向かって生きていくが、小山内瑠理も正木瑠璃もあまりに突然この世から死んでいった。だが死とともに新しい命が誕生していることを正木竜之介が気づく。それは最近凝っている哲学書「」に関心を持っているからかも。

 小山内堅が娘の異常(ランドセルを背負った小学2年生が一人で電車に乗り、高田馬場の駅で見つかる事件など)に気づき、高校卒業までは一人旅をしたいという瑠璃を説得し、それまでは何事もなく過ごしてきたが、卒業後三角哲彦に会いたいと母親の運転する車で途中交通事故に遭遇死亡。

 三角哲彦は大学時代、バイト先の高田馬場のレンタルショップに勤めていたとき見知らぬ女性と巡り会い、次第に逢瀬を重ねることに。でもその彼女(正木瑠璃)も電車に轢かれ死んでしまう。
 正木竜之介は、煙草屋さんで働く奈良岡瑠理に一目惚れ、強引に結婚に到るも、先輩の自殺、妻の死に人生設計を狂わせ、奈落の底に。ようやく復気、市内では古手の小沼工務店に拾われ、以後信頼を勝ち取る。
 小沼の娘希美が、3代目社長の正木竜之介に懐き、やがて奇妙な行動に遭遇、記憶をたどると見えてきたものが。

 この作品、なかなか読み解きづらく、作成している覚え書きを何度となく見返し、整理するはめに。瑠璃という同じ名前が出てくるのと、時系列が上手くつかめないことだった。
 でも、個々の話は丁寧な説明がなされていてわかりやすい。
 終盤になり、正木竜之介が話の中心になって次第に繋がってくる。

 小山内瑠璃が事故死した年に、小沼希美が生まれた。正木瑠璃が死んだ年に、小山内瑠理が生まれていたとしたら・・・。三人は繋がっている。

 小山内瑠璃が仙台での高校時代親友であった緑坂ゆいが、小山内に語る小山内瑠璃との秘密。“予告夢”、“繰り返しの子供”の言葉。小山内瑠璃が描いた肖像画が、三角哲彦の顔と一致したら小山内にも過去に不思議な現象が起きていた証拠と。

(反省)
 上記の通り、登場人物のことを整理し、最後まで読み通して、改めて最初から読み始めると、次第に辻褄が合ってきて、やっと物語の本質が理解できてきた感じである。
 その後で原稿を作成したら良かったけれど、次の作品の読書に進みたくて・・・。


余談1:
 本作品は第157回直木賞作品である。その時の評価を見てなるほどと思うところが自身の評価に参考になった。
 ・構成は凝っていて巧み、淡々と物語を運んでいく文章力は流石。
 ・完成度は高いが、実に奇妙な小説。物語としては薄気味悪い。
 評価する人と少し批判的な人半ばと言うところか。


余談2:

 目次に、章の初めに時計の時刻のイラストが入っていて、何だろうと思っていた。
 話は東京駅に小山内堅が緑坂ゆい、るい親子と三角哲彦(結局三角は待ち合わせ時間には現れなかった)と待ち合わせの時間が午前11時。小山内はその日の1時20分の新幹線ハヤブサで八戸に戻る予定であった。物語はその約2時間に、緑坂ゆいと、時にるりと小山内とのやり取りの中での物語であった。
 時計のイラストの他にさらに細かく人の表情らしきイラストがその雰囲気に合わせ変化したものであったが、どんな意味かは詮索せず。
背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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