佐々木譲著  『廃墟に乞う』

 

              2016-03-25



(作品は、佐々木譲著 『廃墟に乞う』  文藝春秋による。)

          
 
 初出  「オール読物」
    オージー好みの村      2007年7月号
    廃墟に乞う         2008年7月号
    兄の想い          2007年10月号
    消えた娘          2008年1月号
    博労沢の殺人        2008年4月号
    復帰する朝           2009年3月号
 本書 2009年(平成21年)7月刊行。第142回直木賞受賞作品。

 佐々木譲:(本書より)

1950年北海道生まれ。自動車メーカー勤務を経て、79年「鉄騎兵、跳んだ」でオール読物新人賞を受賞。90年「エトロフ発緊急電」で日本推理作家協会賞、山本周五郎賞、日本冒険小説協会大賞を受賞する。2002年「武揚伝」で新田次郎文学賞受賞。他の著書に、「ベルリン飛行指令」「天下城」「制服捜査」「警官の血」「笑う警官」「警官の紋章」「暴雪圏」などがある。

主な登場人物:


仙道孝司 北海道警察本部刑事部捜査一課、警部補。現在自宅療養中。
<第一話> オージー好みの村
中村聡美 “ワインバー・スノークイーン”で働く。仙道とは6年ぶりの再会。
アーサー・リチャーズ 貸別荘のオーナーで、オーストラリア人のために旅行代理店を経営。店で働いていた被害者の女性の殺人事件の第一発見者。警察から疑われている。
守口啓介 仙道とは札幌の所轄で一緒の4期年長、今は倶知安署勤務の警部補。
<第二話> 廃墟に乞う
田向恭子 13年前札幌の娼婦殺害事件の被害者。
古川幸男 当時逮捕され懲役12年で服役、明けた。一昨日の船橋での事件は山岸に昔の事件を連想させ、仙道に連絡が入る。
山岸克夫 かって本部札幌中央署刑事一課で上司だった捜査官。
<第三話> 兄の想い
山野敏也

水産廃棄物の処理工場を経営。漁港での殺害事件で加害者の、町一番の人望のある若い男を助けてと。(加害者とは義理の兄弟の関係)
仙道はある刑事事件の参考人として情報提供を受け、借りを返したい。

磯田忠男 担当の刑事、警部補。
<第四話> 消えた娘
宮内 田辺刑事からの紹介と仙道に娘の由美の捜索依頼。
高田峰夫 連続暴行犯、26歳。
田辺浩 白石署刑事課の巡査部長。捜査本部立たず。
<第五話> 博労沢(ばくろうさわ)の殺人

大畠岳志(たけし)

長男 幸也
(36歳)
次男 真二
(32歳)

競走馬生産牧場のオーナー。1昨日の朝強い力で一撃されている姿を妻が発見。
・幸也 大畠牧場の親会社大畠開発興業の専務。結婚して息子有り。
・真二 札幌で仕事、帰ってきていた。独り身。
「息子ふたりは父親を殺したいくらい憎んでいた」と新聞屋の吾妻。
・娘 結婚して東京に。

佐久間良治 この町の警察署刑事・生活安全課。仙道より3〜4歳年上。
<第六話> 復帰する朝

中村由美子
妹 春香

帯広の有名菓子メーカーの経営者の娘でレストランのオーナー、30歳。
10日前十勝川河川敷での女の焼死体事件、妹が容疑者としてマスコミの攻勢に合っていることで仙道に助けを求めてくる。

秋野浩平

帯広署地域課の刑事、警部補。かって本部で同じ捜査一課に、3つ年上。
その時仙道のバディ。

物語の概要: (図書館の紹介記事より)

 ニセコの貸し別荘で見つかった女性の絞殺死体。仙道孝司は、オーストラリア人と日本人不動産業者との確執に事件解決の鍵を見出す。組織の縛りから解放された「休職中」の刑事が北海道を駆け回る連作小説。

読後感
  

 心療内科医の指示で求職中の警部補が捜査の権限も、逮捕権も、警察手帳もなく北海道の各地を事件に引きづられて訪れ、解決へと導くちょっと異色の連作物語。
 関わっていた過去の事件に関連していたり、当時感じていたことを裏付けして背景を知ったり、頼まれごとで関わったりと、以前同僚であった刑事との交わりを交えて事件解決に寄与する。

 本来の刑事の立場でなく、一人の人間としての行動が事件の背景とか人物の人となりとかに触 れて真相を解き明かす様で、人間ドラマ的な雰囲気がある。また語りがいかにも著者らしく、短い言葉で投げつけられるようでこの雰囲気も好ましい。
 自ら犯人を挙げることは出来ない分、相手に犯人を挙げさせる手法でいくところが一風変わったシチュエーションである。

  

余談:

 ネットに直木賞受賞に絡みインタビュ記事が出ていた。抜粋で以下に。
・北海道のさらに地方都市、それぞれ生活の異なる場所で起こるその土地ならではの犯罪を一つ一つ書いていこうと考えました。日本はどうしても均質性の高い社会です。でも北海道の地方都市を書けば犯罪を通して均質さから外れた人間たちを描くことが出来るのではないか。
 
 それから、地方それぞれの犯罪に関わることの出来る警察官は、どんな立場だろうか。道警本部の捜査員だと、セクションもあり、そうそう北海道全域には関われない。しかし、休職中の捜査員であれば、公務ではないけれども北海道全域に関わることが出来るんです。

・『廃墟に乞う』の仙道は警察官であるけれども、プライベートアイ、私立探偵に近い立場であると位置づけました。仙道のキャラクターもあまり強烈な個性の持ち主にはしませんでした。それは過去の事件で精神的外傷を負っての休職中なので。控えめに事件に関わり、解決する直前に現場から身を引く人物です。連作なので、全体を通して仙道という主人公が精神的外傷から立ち直っていく再生の物語にしようという思いもありました。
 

背景画は、流星をイメージして。

                    

                          

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