◇物語の展開:
「犯罪発生率、管内最低」の健全な町で、巡査部長の川久保が目撃した荒廃の兆し、些細な出来事。嗅ぎつけた“過去の腐臭”とは。捜査の第一線に加われない駐在警官の刑事魂が、よそ者を嫌う町の犯罪を暴いていく。
◇読後感
佐々木譲作品「警官の血」で、その文章の記述の特色が気を引いたが、本作品もそれを彷彿とさせる語り調子で、短い文章をたたみ込んでいく風で突き放したような、怒りをぶつけているような感じを出している。
内容的にも世の中の吹聴に背を向けて正義感というか、人間としての生き方の筋を通すような気概が伝わってきて、共感を呼ぶ所が多い。
作品は北海道志茂別駐在所に赴任してきた巡査部長の幾つかの事件が章毎に描写されているが、通じる所は、警察に対しても一矢報いる姿勢で自分の生き方を通した行動で一貫している。そして小さな町に、大都市から、また内地からのすさんだ風が吹き込んで犯されていく。
◇印象に残る表現
・ 「制服警官ですからね。捜査はできません。」「駐在が殺人事件を自分の裁量で処理したってことですか」(「遺恨」より)
・ 「無能な刑事は、まわりの人間の人生をあっさりぶち壊すなと思っただけです」(「割れガラス」より)
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