佐々木譲著 『制服捜査』 




                      
2012-07-25

 作品は、佐々木譲著 『制服捜査』   新潮社による。

                 

初出 「逸脱」  「小説新潮」臨時増刊「警察小説」2009年3月号
   「遺恨」  「小説新潮」2004年12月号
   「割ガラス」  同上  2005年4月号
   「感知器」   同上  2005年7月号
   「仮装さい」  同上  2005年10月号

本書  2006年(平成18年)3月刊行。

 佐々木譲:

 1950,北海道生まれ。自動車メーカー勤務を経て、79年「適期兵、跳んだ」でオール読物新人賞受賞。90年「エトロフ発緊急電」で日本推理作家協会賞、山本周五郎賞、日本冒険小説協会大賞をトリプル受賞する。

主な登場人物:

川久保篤(あつし)

北海道志茂別駐在所巡査部長。札幌から単身赴任。
25年間の警察官人生、札幌刑事課盗犯係とか強行犯係勤務。
初めての駐在所勤務。

片桐義夫 35年間この町で郵便配達、2年前に定年退職。情報通。
町内の有力者

・防犯協会会長 吉倉
・地域安全推進委員 中島
・前の町議会議長 内橋

山岸明子
息子 三津夫

「逸脱」での母子家庭の母親。父親は離婚後内地に、音信不通。
息子の三津夫(高3の17歳)、盗んだバイク事故で死亡とされるが・・。

篠崎征男(まさお)
最初の妻 菊江
再婚後の妻
息子 章一

「遺恨」での篠崎牧場の主、60近くの大男。顔を血まみれにして殺される。通報者は息子の章一。中国人の研修生が居なくなっていた。
菊江は表向きは交通事故死とされるが、噂では自殺とも・・。

大城克夫
山内浩也(少年)

「割れガラス」で玉木工務店からログハウスづくりで来た腕のいい大工(前科者)。
 町の運送会社社長の栗本と、再婚相手の由香里(山内浩也の母親)の家庭で苛められている浩也を、川久保は大城に預けて家を出て働けるようにしたが・・。

大路

「感知器」での建設資材を扱う会社の経営者。

長嶺 長嶺は広尾署から放火犯の捜査で来た年配の刑事。川久保からの地域情報で犯人を追いつめる。
大月啓子 「仮装祭」での、13年前の夏祭りで7歳の少女(亜矢香)が失踪した(未解決事件)時の少女の母親。

物語の展開:

 「犯罪発生率、管内最低」の健全な町で、巡査部長の川久保が目撃した荒廃の兆し、些細な出来事。嗅ぎつけた“過去の腐臭”とは。捜査の第一線に加われない駐在警官の刑事魂が、よそ者を嫌う町の犯罪を暴いていく。

読後感

 佐々木譲作品「警官の血」で、その文章の記述の特色が気を引いたが、本作品もそれを彷彿とさせる語り調子で、短い文章をたたみ込んでいく風で突き放したような、怒りをぶつけているような感じを出している。

 内容的にも世の中の吹聴に背を向けて正義感というか、人間としての生き方の筋を通すような気概が伝わってきて、共感を呼ぶ所が多い。

 作品は北海道志茂別駐在所に赴任してきた巡査部長の幾つかの事件が章毎に描写されているが、通じる所は、警察に対しても一矢報いる姿勢で自分の生き方を通した行動で一貫している。そして小さな町に、大都市から、また内地からのすさんだ風が吹き込んで犯されていく。

印象に残る表現

「制服警官ですからね。捜査はできません。」「駐在が殺人事件を自分の裁量で処理したってことですか」(「遺恨」より)

「無能な刑事は、まわりの人間の人生をあっさりぶち壊すなと思っただけです」(「割れガラス」より)


余談:
 お巡りさんと言えば地域住民に最も近い法の番人と考えられる。しかし考えてみると巡査という職業も大変な仕事だなあと感心する。
 刑事物はおもしろくて読書にはもってこいだが、こういった巡査の立場に立った物語にも陽が当たることを望みたい。
 
 背景画は本作品の表紙を利用。

                    

                          

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