佐々木譲著  『警官の血』


             2009-06-25


 
 (作品は、佐々木譲著 『警官の血』  新潮社による。)



              
   

本書 2007年9月刊行

  
佐々木嬢:
 
1950年北海道生まれ。自動車メーカー勤務を経て、79年「適期兵、跳んだ」でオール読物新人賞受賞。90年「エトロフ発緊急電」で日本推理作家協会賞、山本周五郎賞、日本冒険小説協会大賞をトリプル受賞する。

主な登場人物:

安城清二
妻:多津
長男:民雄
次男:正紀

終戦除隊後、巡査の募集に応募、上野警察署外勤係に。派出所での勤務に精を出すが・・・。
妻の多津は高等女学校を卒業して洋裁学校に通う。結婚半年で民雄を身ごもる。次いで正紀の二人をもうける。

警察訓練所で同じ班になる同期の三人。

香取茂一:愛宕警察署防犯課勤務に。
早瀬勇三:警視庁勤務の捜査員に。
窪田勝利:大崎警察署交通課勤務に。
民雄たちの血の繋がらない伯父となる。

安城民雄
妻:順子
息子:和也
娘:奈緒子

父(清二)の後ろ姿をみ、同期生の好意を受け警察学校に進む。卒業後北海道大学に行く気がないかと進められ、任務を負って北大に。時は公安事件が続く時期潜入捜査で・・・。
安城和也 叔父(正紀)から父の北大進学、秘密任務のことを初めて聞き、大学進学を果たし、大学卒業警察官として3代目の警視庁警察官となる。研修、試用期間終了後4課(暴力団に対する捜査)のある人物のスパイをする任務を負う。そして祖父(清二)の死の真相を知ることに・・・。


読後感
 

 図書館の予約でもなかなか手に入らず、期待に胸を膨らませやっと手にした感じ。丁度その時高村薫の「レディ・ジョーカー」を読でいた。読み始めて今までとまったく違う感触にとまどった。淡泊というか少し突き放したような立場で描写されるところが、くどくなく、かえって切なさ、無情を引き出しているようだ。
 しかし対象の人間が今まであまり描かれなかった巡査であることが非常に新鮮であった。

 読んでいると、派出所や駐在所に勤務している警察官の仕事の内容、生活が判り、非常に身近に感じられるようになった。(第一部 清二)

 また第二部では民雄が自分を偽り、絶えず周囲に気を付け恐怖で神経を削られていく任務に、神経を患って不安神経症になり、人格崩壊のおそれも出る姿は壮絶。果たして希望の駐在署勤務が実現し、症状は改善するのだろうかと。

 第三部での3代目になる和也の場合も、3代も続く警察官という「警官の血」を見込まれ、スパイのような任務になる。せっかく恋人にも巡り会い、指導者の相方にも気に入られかけたのにやはり裏切り、裏切られることになるのはどこまでも見放されているということか。

 そして第一部からの諸々の積み残しの事件の真相、祖父や父の知られざる姿が明かされ和也のたくましさが最後に示されることに。それにしても警察機構の内部の問題は驚くことばかり。


◇◆本の帯の文章:

 戦後闇市にはじまり、全共闘、そして現代まで、警官三代の人生、昭和から平成の時代の翳(かげ)、人々の息づかいを描き切る。警察小説の最高峰 汝の父を敬え―――。

 帝銀事件が世を騒がせた昭和23年。希望に満ちた安城清二の警察官人生が始まった。配属は上野警察署。不可解な「男娼殺害事件」と「国鉄職員殺害事件」。ある夜、谷中の天王寺駐在所長であった清二は、跨線橋(かせんきょう)から転落死する。父の志を胸に、息子民雄も警察官の道を選ぶ。だが、命じられたのは北大過激派への潜入捜査だった。ブント、赤軍派、佐藤首相訪米阻止闘争、そして大菩薩峠事件―――。

 騒然たる世相と警察官人生の陰影を描く、大河小説の力作。

 

余談:

 警察の大学卒と高校卒とのその後の昇級するルート、上位下達の縦社会、格差社会、本庁と所轄署との関連、移動のメカニズム記述などなかなか警察という機構の内部の様子の描写から大変な社会だと認識。

 背景画は、2009年テレビ朝日で放送のドラマのフォト(テレ朝HP)を利用。

                    

                          

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