佐々木丸美著  『崖の館』





              
2010-01-25



(作品は、佐々木丸美著 『崖の館』 ブッキングによる。)

                 

 初出 1977年講談社より同名で刊行。
 2008年2月復刊

 佐々木丸美:
 

 北海道当別町出身、北海学園大学法学部中退。1975年「雪の断章」でデビュー。詩的な美文と、ミステリー、ファンタジー、お伽噺、超常現象、仏教思想など様々な要素を絡めた独特の作風が特徴。


 


 物語の展開:

 百人浜の館で美しい従姉妹が死んだ。数年後、館を訪れたいとこたちが次々と惨劇に見舞われる。涼子は犯人への手がかりをつかむが・・・。

 主な登場人物:

涼子(私) いとこの中の末っ子。高校2年生。
哲文君 私より3つ年上、2回の受験を失敗、浪人中。医大を目指していたが、美大に進むつもり。
由莉ちゃん 哲文君より1つ上。大学3年生、心理学を専攻。おしゃれで喧嘩っ早く、そのくせ淑女気取り。負けん気でむらのある気性。
研さん 29歳、普通のサラリーマン。臨機応変タイプ。千波と結婚の約束が取り交わされていた。
真一さん 26歳、お父さんと一緒にスーパーマーケットを切り盛り。平凡で努力家、何ごとにも実直堅固でじっくり足がためをするタイプ。
棹ちゃん 24歳、おばさんお気に入りの箱入り娘。
おばさん 館の主。気前が良くて大金持ち、60歳をとっくに過ぎている。
千波ちゃん 由莉ちゃんより1つ年上の優しいお姉さんだった。子供の時両親を事故でなくし、おばさんに育てられ、高校に行かずに様似の館で読書や絵に親しむ。二十歳の夏、崖から落ちて亡くなる。本当に事故だった?

読後感:

 上質の推理小説である。
 なかの好いいとこ同士が、夏休みや冬休みに西の果て、襟裳の燈台を望む様似のはずれ、崖に建つ百人浜の館で起きた奇妙な出来事。 次第にこうかつで頭のいい(?)犯人がいとこ達の中にいるとわかり、みんなの推理が話し合われるとともに、疑心暗鬼に陥る。
 お互いの会話から、仲がいい内側に犯人がいるというのは何か嘘のようであり、悪戯なのか、それとも2年前に起きた千波ちゃんの転落事故が仕組まれた物であるのかなかなか気になる展開である。

 時に妖しそうな人物の隠された生い立ちというか、見られてきた目、その人の生き方の思想、性格が見られるのだが、でもみんないい人間の集まりで、また振り出しに戻ってしまう。
 心理の描写も鮮やかで犯人なんかはいないのではと思い至ってしまう。
 気になった点と言えば、亡くなった千波があまりに羨望の的の描写(美人で頭が良くて、優しくて、先を見通す能力も備わりかわいがられている)が気になっていたが、やはりというところか。
 詩の話、絵の話もおもしろかつた。


  

余談:
 佐々木丸美の作品は幾つかのグループに別れていて、「崖の館」は3部作ある。他のは「水に描かれた館」、「夢館」である。いずれも「崖の館」とのつながりがあるようで、次の作品も読んでみたい。
  
背景画は、カフェ ダダリ(長谷川現代美術館)の外観を利用
駿河湾を一望する、元外人の別荘を開放、素敵なカフェと美術館が併設されている。営まれているご主人の人柄、雰囲気、センスが素敵らしい。
本作品のイメージにぴったり。