桜木紫乃著 『凍原』
          



 
                
2013-04-25

 (作品は、桜木紫乃著 『 凍原 』  小学館による。)

               

 初出 2009年10月小学館から単行本として刊行。
 本書 2012年(平成24年)6月刊行。

桜木紫乃:(本書より)

 1965年、北海道生まれ。2002年「雪虫」で第82回オール読物新人賞を受賞。07年初の単行本「氷平線」が新聞書評等で絶賛される。他の著書に「LOVE LESS」「起終点駅(ターミナル)」などがある。
 

<主な登場人物>
 

松崎比呂
(旧姓水谷)
弟 (水谷)貢
母親 凛子
(旧姓水谷)
父親

札幌方面北署から故郷の釧路署に刑事として転入してくる、30歳。片桐周平とのコンビで鈴木洋介殺人事件の捜査に当たる。
・17年前(1992年7月)、弟の貢(3つ年下)は釧路湿原で行方不明に。
・両親は比呂が札幌の警察学校に入った後離婚。
・凛子は市立病院助産婦を辞め、‘助産院愛’を開業。

杉村純
母親 波子

水谷貢と幼なじみ、貢のことで何か知っている?
母親の波子は小さな炉端焼屋を営み生活を支える二人家族。
純は今27歳、札幌から故郷の釧路で‘炉端・純’を開店、評判はいい。
母親の波子は去年の7月、終末医療専門の病院で亡くなる。
片桐周平

釧路方面刑事一課強行犯一係警部補、独身の50歳。
水谷貢の行方不明に配属3ヶ月の生活安全課の時に関わる。

長部キク

南樺太恵須取(エストル)出身の引揚者。1945年(昭和20)引揚げ時に人を殺す過去を持つ。引揚げ時、鈴木克子と出会い、留萌で一時過ごした後去る。
・ススキノで「カフェ 夢や」で働いていたが、その後室蘭の魚や‘魚十’に後妻で離れに住みつく(1961年昭和36年頃)。派手好きで店はゴチャゴチャになる。
・正徳との約束か、店を持つことに。

鈴木克子 南樺太敷香からの引揚者。長部キクと一緒に親戚の上野家を頼り、キクの産み落とした女の子を育てる。名は‘ゆり’。

鈴木洋平
姉 加代
母親 ゆり

札幌のH自動車の営業マン。眼が青いことで自分のルーツを知りたがり、釧路で殺される、34歳。
姉の加代は小樽駅前で‘茶房ノクターン’を経営する。
母親のゆりは、加代10歳、洋介5歳の時離婚。

十河(そごう)キク
息子 克徳
(かつのり)
克徳の長男 正徳
(まさのり)

阿寒の麓にある湿原染工房の主宰、80余歳。文化功労賞を貰う。
以下は<1961年(昭和36年)頃>
克徳 ‘魚十’の社長。
正徳 放蕩息子で、札幌から女(長谷部キク)を連れてくる。キクは‘染め物 そごう’の商売を始めるも、雇った女と正徳の関係でキクは逆上・・‘魚十’は傾き、人手に渡る。


<物語の概要>

 
17年前、弟を湿原に奪われた松崎比呂は、刑事となって札幌から釧路に帰ってきた。その直後、釧路湿原で他殺死体が発見される。比呂は消えない「眼」の因縁に巻き込まれてゆく…。超新星、渾身の書下ろし。

<読後感>

 なかなか哀愁があり、惹かれるところのある作品であった。最初の水谷貢という小学4年生の少年が釧路湿原で行方不明となり、その後この話題が全く出てこないで物語が展開していく。さらに時代をさかのぼって樺太からの引き揚げ場面となり、長部キクの北海道への逃避行に展開。殺人まで起きる、このこともその後音なしに。続いて現在に至り、今は警察官となった松崎比呂が登場。昔貢の捜査で担当の片桐周平と鈴木洋介なる青い眼の青年の殺人事件を調べることに。
 舞台が北海道ということもあり、なぜか「飢餓海峡」を思い出させるような雰囲気が漂う。

 長部キクと十河キクの名が気になる。ところで登場する人物をしっかり掴んでおかないと、おもしろみが半減する。それと釧路、室蘭、札幌、小樽といった地理関係も頭の中にしっかり入っていないとこれも興味がそがれる要因である。幸い釧路や樺太の地図は記載されているので大変助かる。

 ルーツを探すということは色々人の人生の裏を探ることになり、秘密を抱えた者にとっては苦しいことにさいなまれることであろう。

  印象に残る表現:

 松崎比呂が純と対峙し、話す言葉:

「あなたはまだ、大切なことの半分も話してくれていない。このままでは私も片桐さんも、純君と過ごした時間をうまく仕舞うことができないんです」
・・・

「ずっと、実感なんて必要あるのかと思ってきたけれど、必要なんだとやっとわかったの。人の思いって、ちゃんと箱に入れてあげないとずっとどこかで漂い続けてしまうのよ」

   
余談:
 北海道という場所があってこの作品が生まれてきたのだなあと。場所というか、土地というか、風土が生み出す物語ってそれだけでも味が備わるもののようだ。

             背景画は釧路湿原国立公園のホームページより釧路湿原のフォトを利用して。             

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