桜木紫乃 『家族じまい』


              2022-09-25


(作品は、桜木紫乃著 『家族じまい』    集英社による。)
                  
          
  
  
初出 「小説すばる」2019年一月号・三月号・五月号・七月号・九月号
      単行本化に当たり、加筆・修正。
  本書  2020年(令和2年)6月刊行。


 桜木紫乃(さくらぎ・しの)
(本書による)

 1965年北海道生まれ。2002年「雪虫」でオール讀物新人賞を受賞。07年に同作を収録した単行本「氷平線」を刊行。13年「ラブレス」で島清恋愛文学賞を受賞。同年、「ホテルローヤル」で第149回直木賞を受賞し、ベストセラーとなる。「起終点駅 ターミナル」「無垢の領域」「蛇行する月」「星々たち」「裸の華」「ふたりぐらし」「緋の河」など著書多数。 

主な登場人物:

姉 智代
夫 啓介
息子と娘

父の技術を受け継ぎ、理容師免許を持つ智代は、近所のスーパーの美容室「アクア」にパートで8年、48歳。
・夫 北海道内を2〜3年で転勤する公務員、還暦間近。
今は札幌近郊江別市に建て売りを購入、1年前から二人暮らし。
・息子は成人、娘は大学生。

妹 乃理
夫 徹
(とおる)
息子と娘

ママっ子の乃理、44歳。 姉に代わり、両親の心配をする。
・夫の徹は誰に対しても“いい人”を絵に描いたよう。
 乃理の3つ年下。乃理の苦労は絶えない。
・長男 聖也(せいや)、次男は中一、長女は小四。

父親 猛夫(たけお)
母親 サトミ

釧路在。
・サトミ 物忘れがひどく、食べ方が半端でない。父親はその日に食べる分しか置かないようにしている。

姉 登美子
娘たち

70まで温泉旅館勤め。 45歳の頃夫と別れた。 年金で一人暮らし。 体はしっかりしている。
・上の娘 萌子
(もえこ) 鍼灸院に勤める傍ら市内の文化スタジオで健康体操指導。
還暦を迎え、「結婚することにした」と。 縁切りの儀式。
 下の娘 殊子
(ことこ) 背中に刺青の男と暮らしはじめ30年近い。

妹 サトミ
夫 猛夫

登美子は、物忘れの激しくなった妻を看ている猛夫を訪ね、免許を返納した猛夫に「いい加減格好つけるのはやめたらどうだい」と。
一週間に一度くらいは来てあげると。

兄 啓介
妻 智代

片野智代の夫。
・智代 実家から離れ、両親は妹の乃理にゆだね・・・。

弟 涼介(りょうすけ)
妻 陽紅
(ようこ)

片野涼介、55歳、初婚。 母親のためと。 朴訥。
子作りは任せると・・・。
・陽紅: 帯広から車で1H、農協勤め。 バツイチ。 パン屋をやるのが夢。 子供作りは元夫と・・・。
陽紅の母親: 聖子 5回の結婚・離婚の持ち主、55歳。 スナックのママ。生き方は陽紅にも影響。

母親 片野うた子

80過ぎの両親。 陽紅には「親と別居」、「介護なし」の条件付きでと、陽紅を口説き落とす。

[第一章] 智代 還暦に近い夫の啓介に円形脱毛を見いだし・・・。 子供たちも巣立ち、二人暮らし。この先の老いの準備は・・・。
果穂 カットサロン「アクア」の店長。 未婚の37歳。
[第二章] 陽紅(ようこ) 農協勤めのバツイチの陽紅を、片野うた子が息子(55歳、初婚)の嫁にと乞われ、結婚するも、夫は妻に手も触れられないで。
[第三章] 乃理 姉の智代が両親のことに気をかけないので、乃理が母親のサトミのことを心配、父親の猛夫に函館に来ないかと。
[第四章] 紀和 フェリーでのサックス演奏で出会った、老夫婦とのやりとりに・・。
門脇紀和 サックス奏者。音大を出て旅行会社で人間関係につまずき、演奏活動に。母と二人暮らし。 船での仕事が初めて得たプロ奏者の仕事。 サトミ、猛夫老夫婦の最後の旅行に出くわす。
トニー漆原 30年に及ぶジャズバーでのピアノ奏者。 癖の強い個性。
[第五章] 登美子 サトミの姉登美子は、夫の猛夫に告げる。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

「ママがね、ぼけちゃったみたいなんだよ」。 突然かかってきた、妹からの電話。 両親の老いに直面して戸惑う姉妹と、それぞれの家族。 認知症の母と、かつて横暴だった父…。 別れの手前にある、かすかな光を描く長編小説。

読後感:

 物語は姉夫婦(智代、啓介)、妹夫婦(乃理、徹)、その両親(サトミ、猛夫)、そしてサトミの姉(登美子の家族)の間に起こる問題。 さらに啓介の弟夫婦(陽紅、涼介)の家庭に起きる事情。 周辺事情として、苫小牧から名古屋間のフェリー内で起きる老夫婦(サトミ、猛夫)とサックス奏者竹脇紀和との交わりが、第一章から第五章までそれぞれ主人公となる人物の絡みで展開している。

 この小説は、読み終えて次第に構成が理解できるようになっていて、最初にわかっているとこれらの家族で起きている事柄が、老いとともに家族がそちらに向かって破綻?していく状況が身に迫って感じてくる。 本の題の「家族じまい」が一層ずしんと胸に来る。

 中でも、一番幸せなのは、サトミかもしれないと思われる。 記憶が次第になくなり、夫に殴られてもすぐに忘れ、認知症も進み、でも時にすべて判っていて行動しているのではないかと紀和に思わせたり、キラキラと輝く瞳を見せるときもあり、そして夫を頼り、子供たちのことも好きと言う。

 人生は一筋縄ではいかない。 娘は母親に対して辛らつな言葉を投げかける。 親は子供に対して自分の期待を押しつけ、それに負い目を感じ、子供たちに面倒をかけまいと、自分で妻の最後を見届けようとする父親に、意見するのは、やはり長老の登美子(サトミの姉)だったりか。

余談:

 それぞれの家族に事情があるように、老いの身支度が始まる時に遭遇すると、今までの生き方にどう始末をつけるのか。 はたして家族の終わりに突き進んでいくのか? 
背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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