桜木紫乃著 
            『ホテルローヤル』 






                
2014-03-25


(作品は、桜木紫乃著 『ホテルローヤル』    集英社による。)

            
 
 

 初出誌 「小説すばる」
  シャッターチャンス 2010年4月号(「ホテルローヤル」改題)
  本日開店      書き下ろし
  えっち屋      2010年7月号
  バブルバス     2011年2月号
  せんせぇ      2011年7月号
  星を見ていた    2010年12月号
  ギフト       2012年3月号


本書 
2013年(平成24年)1月刊行。第149回直木賞受賞作品。

桜木紫乃:(本書より)

 1965年北海道生まれ。2002年「雪虫」で第82回オール読物新人賞を受賞。07年、初の単行本「水平線」が書評で絶賛される。12年、「LOVELESS(ラブレス)」で第146回直木賞候補となる。他の著書に「風葬」「凍原」「恋肌」「硝子の葦」「ワン・モア」「起終点駅(ターミナル)」など。

◇ 主な登場人物

◇シャッターチャンス
加賀屋美幸 「スーパーフレッシュマートしんとみ」の事務13年のベテラン。貴史にモデルを頼まれる。
木内貴史 中学時代の同級生、今は「しんとみ」の正社員。宅配の運転手として働くが、廃墟でヌード写真を撮りたがる。
◇本日開店

設楽幹子
夫 西教

「観楽寺」の住職(西教)の20歳年下の妻。苦しい寺を支えるため檀家からお布施を得るためあることが引き継がれている。
佐野敏夫 新しい檀家の総代。50歳で家督を引き継ぐ水産会社の社長。
◇えっち屋

田中雅代
父 大吉

大吉の娘、29歳。父が開業のラブホ「ホテルローヤル」の事務室暮らし10年。築30年の最後を迎える。
宮川 アダルト玩具販売の営業担当、39歳。
◇バブルバス

本間恵
夫 真一

夫は個人で家電販売をしていたが大手家電量販店の進出でそこのフロアマネとして働く。
恵は姑の介護を終えたと思ったら、次は舅と昨年から同居。
姑の墓参りはダブルブッキングで無駄に。

◇せんせぇ

野島広之
妻 里沙

木古内で単身赴任の数学教師。春の3連休に妻のいる札幌に向かう。
佐倉まりあ 野島が担任の2年A組の女生徒。べたべた声で「せんせぇ」と呼び、話があると列車に同乗してくる。
◇星を見た

山田ミコ
夫 正太郎

「ホテルローヤル」の掃除婦になって5年、60歳。
夫は10歳年下で漁師をしていたが。

和歌子 同じ農園で知り合ってミコをホテルの家政婦に誘ってくれた同僚。

るり子
夫 大吉
娘 雅子(高校生)

ホテルの女将、40歳。社長(田中大吉)は毎日パチンコ暮らし。
◇ギフト

田中大吉

女房と二人だけの個人経営の看板屋、42歳。ラブホ経営の夢に腹を決めたとたん、女房は離婚届を置いて去る。
るり子 団子やの売り子。大吉から「ホテルローヤル」の女将にならないかと。

物語の概要:図書館の紹介より

湿原を背に建つ北国のラブホテル。訪れる客、経営者の家族、従業員はそれぞれに問題を抱えていた。閉塞感のある日常の中、男と女が心をも裸に互いを求める一瞬。そのかけがえなさを瑞々しく描く。

読後感:

 それぞれの章が独立していて、まったく独立しているかというとそうではなく“ホテルローヤル”というラブホを介して関連付いている物語となっている。それはホテル建設から始まってホテルに直接関わる社長、女将、従業員、客が物語の題材となり、そこに関わる人々のひっそりとであったり、慎ましさであったり、切ない物語であったりと総じて哀しみのことが多いのだが、世の中の無情さ、男と女の繋がりそしてその中にも幸せを感じて生きている姿をあぶり出している。

 そんな中で「せんせぇ」が何故かすんなりと胸に入ってきて女子高生の放つ言葉が先生にはずしんと響いたのではなかろうかと思う。

 もうひとつは「星を見ていた」。ミコという60歳の年配の女性、母親からとにかく「誰も恨まずに生きてけや」「一生懸命に体を動かしてる人間には誰もなにも言わねぇもんだ。聞きたくねえことには耳ふさげ。働いていればよく眠れるし、朝になりゃみんな忘れてる」と言われるとおりの生き方で、自分の周囲の人間が優しく変化してゆくのを経験する。そんな中で自分の息子が暴力団の抗争事件の犯人とする出来事や、10歳年下の夫との交わりに心の安らぎを感じる様子にはほっこりとする。


印象に残る場面:


◇「せんせぇ」で自分の妻のことを話す。そのことについてまりあが放つ言葉:

「せんせぇ、ひたむきでしたたかな女に、ずぅっと騙されてたんだ」「けどさぁ、それってせんせぇが言ってたキャバ嬢の定義じゃん。泣いて悔しがるような女じゃないよ」
・・・・「せんせぇ、かわいそう」

(補足

 まりあが「ここから先一人で生きて行くには、やっぱり夜のお仕事しかないわけでしょう」「あたし、学校やめてススキノでキャバ嬢になろうかと思って」と。

 対して野島が放つ言葉「さくら、お前にキャバクラは無理だと思う」「ああいう仕事で成功するタイプじゃない」「ひたむきでしたたかで、人を騙すことに立派な理由をつけられる女」と。)


余談:
 
 桜木紫乃の作品は「凍原」を読んだことがあり、それ以来。「凍原」での感想はミステリー作品ではあったが、なにか哀愁のあるほっこり感を味わったように思ったが、本作品でも人生のささやかな生き様を感じられるようだ。

       背景画は、本作品の舞台となったラブホテルの立地条件に見合いそうな風景で。(ちょっと高級すぎる雰囲気か?)        

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