桜木紫乃著 『硝子の葦』
                          
 

                
2015-05-25




   (作品は、桜木紫乃著『硝子の葦』  新潮社による。)

         
  

 本書  2010年(平成23年)9月刊行。書き下ろし作品。

 桜木紫乃:(本書より)

 北海道釧路市生まれ。2002年「雪虫」で第82回オール読物新人賞を受賞。2007年、デビュー作となる単行本「水平線」(文藝春秋)で注目を集める。他の著書に「風葬」(文藝春秋)、「凍原」(小学館)、「恋肌」(角川書店)。
主な登場人物:

幸田節子
(旧姓 藤島)
母親 藤島律子

喜一郎の3番目の妻。短歌を詠み、歌集「硝子の葦」を自費出版する。幸田喜一郎に請われ結婚。5年ほど澤木の事務所に勤めていた。
・律子は厚岸で“バビアナ”を営む。喜一郎の愛人。節子は中学卒業までここで育つ。

幸田喜一郎
(還暦)

老舗ラブホ“ホテルローヤル”(場所は釧路湿原を見下ろす高台)を経営する。直腸がんで余命半年と。
・二人目の妻 石黒美樹
・三人目の妻 幸田節子。25歳の時喜一郎をパトロンに選ぶ。
・愛人 藤島律子(節子の母親)

石黒美樹
娘 梢
美樹の妹 加奈

喜一郎の二人目の妻。
・娘の梢 喜一郎と唯一血の繋がった身内。
・加奈は末広でカクテルバー“しずく”を営む。

澤木雅弘

東京の弁理士事務所に就職し結婚するも、離婚を機に辞めて釧路に戻る。“ホテルローヤル”の税理士。
・木田総子 事務所の事務員。節子が辞めるとき、喜一郎の紹介で勤めるように。

愛馬兼一 愛馬病院の2代目院長。澤木と高校時代3年間同じクラス。“ホテルローヤル”から車で10分の所にある。
宇津木とし子 “ホテルローヤル”の管理人。夫が営んでいたラブホが立ちゆかなくなり、喜一郎が引き受ける。

佐野倫子(みちこ)
娘 まゆみ
夫 佐野渉
(30そこそこ)

短歌会の仲間。節子とはまるっきり異質の歌を詠む。
・まゆみ 外から見える部分以外の身体につねられたり殴打された痣を持つ小学2年生。
・夫 渉 倫子と連れ子まゆみの夫。倫子より5歳年下。
デパートの社長の甥っ子。

都築 厚岸署の刑事。

物語の概要:(図書館の紹介記事より)

(夫が自動車事故で意識不明の重体。看病する妻の日常に亀裂が入り、闇が流れ出した…。驚愕の結末、深い余韻。傑作長編ミステリー。 文庫より)
 母の愛人だった男が、私の夫。愛なんて最初からなかったはずなのに。夫の事故ですべてが狂い始めた…。善悪の彼岸へ近づく日常。私たちの“仮面”は崩壊し“怪物”が顔を出す。ノンストップ・エンタテイメント長編。

読後感:
 
 序章では厚岸(あっけし)の火災で幸田節子が焼身自殺?の騒ぎ。そして節子に最も近い人間として澤木昌弘に厚岸署の都築刑事が事情聴取。
 そして話は老舗ラブホ「ホテルローヤル」の経営をめぐる幸田喜一郎と妻幸田節子、節子との付き合いのある税理士澤木との関係、短歌の仲間である、歌風は全く異質と言われる佐野倫子とその娘まゆみとの奇妙な関わりが絡んで一体どういう展開になるのか。

「ホテルローヤル」は先に読んだ「ホテルローヤル」の舞台と同じ?のようである。ラストに近づくに従って序章にあった事件の真相が現れてくる。
 節子の人生は喜一郎との結婚で本当に幸せだったのか、母親と喜一郎の関係が結婚してからも切れたことはなかったと母親から告げられたときに怒りが爆発してしまったことは容易に推し量られるし、一方で佐野倫子の人生も夫の渉の暴力に対し、歌に現されるものは真実と思われていたのが実はどうたったのかが明らかに。

 節子が喜一郎と結婚したときに、二人目の妻の子(石黒梢)がまゆみのことを“ちょっと怖かったんだよね”と言わしめるような、異常に大人びて先を見ることの出来る子供であるところにラストの姿が何か印象に残った。

印象に残る表現:

 喜一郎が意識不明になり、節子がラブホをとし子に引き継いで欲しいとの頼みに対して宇津木とし子の言葉:

「奥さんが身軽になるのは構わないんですよ。まだ若いし、いろんな選択があるのも分かります。でもね、身軽って怖いんですよ。縛りのない生活の怖さ、分かりますか。拠り所も束縛もなくなった人間って、明日も要らなくなっちゃうんだ。頼むからもうしばらく私にごちゃごちゃ言われながら頑張ってくださいよ」


余談:

 節子の性格は小説の中で、澤木が事務員として雇うときに節子(喜一郎の紹介)に面接したときに引き込まれたのが“まっすぐな眼差しと20歳という年齢に不釣り合いな肝の据わり方だった”と描写している。その後の展開も喜一郎との結婚を選んだこと、佐野倫子の夫渉の脅しに毅然と対処したこと、母親への対応、喜一郎の先が見えないときに“喜一郎はこの後どうしたかったんだろう”と考え身の振り方を決心したことといい本当に肝の据わった女性であったなあと思ったり。もうひとり宇津木とし子の生き様も何故か引きつけるものがあった。 

 背景画は、作品の舞台厚岸の風景から。