桜庭一樹著 『私の男』







              
2010-07-25




(作品は、桜庭一樹著 『私の男』 文藝春秋 による。

                  
 

初出 別冊文藝春秋2006年9月号から2007年7月号に連載。 
本書 2007年10月刊行。第138回
直木賞受賞作品。

桜庭一樹:

 1971年米子市出身の女性ミステリー作家。 1999年「夜空に、満天の星」第1回ファミ通エンタテインメント大賞小説部門に応募、佳作入選。 2008年「私の男」で第138回直木賞受賞。 読書家として知られる。


 

 
主な登場人物:

私 腐野花
(くさりのはな)
(竹中花)

小さい頃は北海道奥尻島に両親と兄妹と住み、9歳の時震災で家族をなくし、親戚の淳悟のもとに養子縁組で紋別市に移ってくる。そのときの淳悟は25歳独身、仲良しの親子の関係ではなく危険なものであったため・・・。
尾崎美郎
(よしろう)
花の結婚相手、花24歳。はたして上手く新しい人生が送れるのか?

腐野淳悟
(くさりのじゅんご)

北海道紋別市で海上保安部の巡視船勤務。その後休職して8年前東京に花と逃げてきて(そのとき淳悟32歳、花16歳)隠れた罪人の生活を府中刑務所の近くのアパートでおくる。
大塩小町 当初腐野淳悟に思いを寄せていたが、淳悟と花の関係に淫靡な匂いを感じ、やがて東京に出る。花とはお互い忌み嫌っている関係。
大塩のおじいさん 花がひとりぼっちに残された時、行く先のことを一番心配し、その後も淳悟たちのことを注意していて淳悟にも花にも色々忠告をする。花はそんなおじいさんに反発し・・・・。
田岡 札幌から紋別に移ってきた刑事。淳悟の住む東京にも姿を現し、大塩のおじいさんの死に関する話を持ってくる。


物語の概要:

 優雅だが、どこかうらぶれた男。一見、大人しそうな若い女。 狂気にみちた愛のもとでは善と悪の境もない。 暗い北の海から逃げてきた父と娘の過去を、美しく力強い筆致で抉りだす著者の真骨頂。



読後感:

 最初本の表紙を見てうんっと思う。ひょっとして自分の肌に合わない内容?
はたしてそんな感じもしないでもなかったが、

 章立てが第一章が現在の時点で、章がますごとに過去の時点に進んでいき、謎が次第に解明されていくと共に、各章の語りがそれぞれ変わっていく手法が取られ、多角的に捕らえるのに役立っている。
 内容は親と子(娘)のあってはならない関係の出来事で人殺しを犯してしまう二人、
 大塩じいさんの言う言葉「世の中にはな、してはならんことがある。越えてはならん線がある。神様が決めたんだョォ」が印象的。

 でもなんとなく二人の関係に不快感が湧かないのは、背景の北の大地紋別のオホーツクの海の描写が不思議とやるせなさ、心のすさみ、人間の弱みなど人の感情を包み込んでくれる風土が覆い込んでくれるからか。そして花の生まれきて両親兄妹と経験したことのない死別をしてひとりぼっちになった環境への同情も。


   


余談:
 やはり作家のことは調べないといけない。名前だけで判断すると間違う。今回もそうでした。
 


                  背景画は作品中の雰囲気を示す紋別市の砕氷船ガリンコ号のフォト利用。



戻る