桜庭一樹著 『荒野』






        
               
2011-05-25
              
2014-06-25





(作品は、桜庭一樹著 『 荒野 』 文藝春秋 による。

                  
 

 初出 第一部2005年6月ファミ通文庫刊「荒野の恋 第一部」を加筆修正。
      第二部2006年2月ファミ通文庫刊「荒野の恋 第二部」を加筆修正。
      第三部書き下ろし。

 本書 2008年(平成20年)5月刊行。

 桜庭一樹:

 1971年米子市出身の女性ミステリー作家。 1999年「夜空に、満天の星」第1回ファミ通エンタテインメント大賞小説部門に応募、佳作入選。 2008年「私の男」で第138回直木賞受賞。 読書家として知られる。
 

 
主な登場人物:

山野内荒野
パパ 正慶
家政婦 奈々子さん

中学1年生、北鎌倉今泉台に住む接触恐怖症気味の日本人的顔の女の子。ママは小さい頃天国に。
パパはチョット変な仕事の蜻蛉みたいな人。恋愛小説家として女性の間で有名。
住み込みの家政婦の奈々子さんは大雑把な、事なかれ主義の年齢不詳の女性。神無月蓉子との結婚で出ていくことに。

神無月悠也
母 蓉子

中学の入学式当日、JR横須賀線の電車の中で荒野に出会いかつ同じクラスであることから知るが、彼女と義理の兄妹になる運命であることを知っていた悠也。
パパのママになる蓉子さんと荒野のやりとりが愉しい。

田中恵里華 入学式の日に声をかけ以後仲良し三人組の一人。美人でチョットお高いところもあるがクラスでは人気あり。でも地下組織組で恋人は現れない。
湯川麻美 同じく入学式の時に声を掛けてきた仲良し三人組の一人。陸上部で活動、話しやすく元気で、顔も可愛いし、恋人も現れる。
阿木慶太 よく喋り性格も温厚でおもしろい。男子と女子のグループの橋渡しの役割。荒野が好きと近寄るが、振られる。


物語の概要: 図書館の紹介文より

  山野内荒野、12歳。 恋愛小説家の父と暮らす少女のもとに、新しい家族がやってきた。 “恋”とは、“好き”とは…。 移ろいゆく季節の中で、少女は大人になっていく。 直木賞受賞第1作、感動の長篇小説。


読後感: 

 舞台の北鎌倉から鎌倉駅周辺、そして人物の名前が荒野といい、山野内家や神無月家の名前、父親の正慶、義母の蓉子、赤ん坊の鐘(かね)など凝っていてなんとも優雅。そんな雰囲気からしてふんわりとした気分になる。そして交わされる会話がまたシャレていて、ユーモアがあったりとご機嫌である。

 テーマは12歳の中学1年生から15歳の高校1年生の年頃の娘たちと男の子というか男子と言ったらいいのか。“恋”とか“好き”とかの青春と呼ぶにはまだ少し早い時期のもろもろが展開されている。

 まだ孫娘は小学校2年になったばかりだから、何年後にかこんなことで悩んだりどきまきしたりするのかなと、ちょっぴり複雑な気持ちで読んだ。

<今回のupdate分>

 図書館でもう一冊借りようと何気なく取った本が、「荒野」という題名とグリーンの中に小鳥が一羽のフォトに惹かれ。確か「荒野へ?」と言う本は読んだと思ったが??と思いながらも。
出だしで北鎌倉の駅に向かっていく描写でああ読んだことあるなあと思い出す。

 それはさておき、引きつけられて最後まで読む。印象は中学1年生の入学式から高校1年生の多感な女の子”山之内荒野”の家庭内での変化、友達との付き合い方、ボーイフレンドとの恋と言うべきか、はたまた母親を亡くした後の家政婦さんとの交わり、そしてその後に父親が結婚して新しく家に入ってきた子連れの義母”蓉子”さんとの気持ちの揺れ具合、前の家政婦さんの”奈々子さん”への懐かしさなど、気持ちの揺れ、そのあと大人へと変身している自分に驚いたり、喜んだりと感慨深いものが沸き上がってきた。

 当時読んだのが孫娘が小学2年生。今ははやくも小学5年生の高学年になっている。後2年もすれば”荒野”と同じ中学を迎えるなんて。
 喜ばしいやら、自分の高齢化と複雑な気持ちになってゆく。

   


余談:

 この小説に憑かれて北鎌倉から今泉台の住宅地までの風景をおさめに4月の晴れた日に出かけてみた。  なるほど明月院の先を左手の方に坂を上がっていくと見事な屋敷が見えてきた。 小説は広いが古い屋敷ということで少し趣は変わるだろうが、周りの雰囲気とかなかなか素敵であった。 今泉台の住宅街の外れに、散在が池森林公園があり、足を伸ばして訪れてみたが、なるほど鎌倉のお花見の隠れた穴場とも言われているらしく、森林と鳥の声に囲まれて静なグリーンの水面に風に舞う桜の花びらは何とも優雅ですっかり感激した。
 小説からこんな体験まで出来て幸せ。これも小説の中の描写が訪れてみようという気にさせるだけのものがあったのだろう。



                  背景画は作品中の舞台の現在の今泉台に出る付近の屋敷をバックに。



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