桜庭一樹著 『赤朽葉家の伝説』







              
2011-09-25




(作品は、桜庭一樹著 『赤朽葉家の伝説』  東京創元社による。

                  
 

 本書 2006年(平成18年)12月刊行。

 桜庭一樹:

 1971年米子市出身の女性ミステリー作家。 1999年「夜空に、満天の星」第1回ファミ通エンタテインメント大賞小説部門に応募、佳作入選。 2008年「私の男」で第138回直木賞受賞。 読書家として知られる。
 

 主な登場人物:

<赤朽葉家の人々>
康幸
タツ

山陰地方の旧家。たたら製鉄所を経営。
康幸は赤朽葉本家の長男、分家のタツが嫁ぐ。
上の赤と下の黒といわれるだんだんの上の大屋敷。下は軍事国家になるにつれ黒菱家の造船所がおおきくなり対立。

夫 赤朽葉曜司
妻 万葉
   (旧姓 多田)
長男 泪
長女 毛毬
次女 鞄
次男 孤独
異母妹 百夜

曜司:康幸が起こした製鉄所をオートメーション化する。
万葉:もともとは“辺境の人”が村に置いていって、多田の若夫婦に拾われた。未来視のできる千里眼の奥様と呼ばれる。泪の死、曜司の死をみる。字が読めない。
泪:赤朽葉家の跡目として期待されていたが、突然死ぬ。
毛毬:若い頃は暴走族<製鉄天使>の長として中国地方の制覇を目指す。兄の泪の死後は一変、少女漫画作家として不良少女時代の生き様を12年間にわたり描き続ける。
百夜:曜司が手を付けた真砂という女との間に出来た娘。寝取りの百夜と言われる。真砂の死後赤朽葉家に引き取られる。

赤朽葉瞳子
   (とうこ)

毛毬と夫美夫(よしお)の娘。物語の中のわたし。母親の毛毬は少女漫画の仕事に忙殺されていて、祖母の万葉に赤朽葉家の話を聞いて育つ。曾祖母、祖母、母に比べごく普通の女。

多田忍
子供の一人 ユタカ

捨て子の万葉を拾ってきた若夫婦。現役時代暴走族の初代頭。引退後武器専門店を営む。
多田ユタカ:瞳子と同級生

穂積豊寿
  (とよひさ)
製鉄所の職工。職工を代表し社長の康幸と意見を戦わすほど溶鉱炉一筋の技能者。大屋敷にいる万葉にだんだんの暮らしを知らせる。

穂積蝶子
 (愛称 チョーコ)

豊寿の姪(蝶子の父親の兄)。毛毬の暴走族<製鉄天使>不良少女隊のマスコットを張る。眉目秀麗、成績良し。
蘇峰有(たもつ) 少女漫画雑誌の編集者。毛毬を少女漫画作家として育てる役割を果たす。


物語の概要: 図書館の紹介文より

 千里眼の祖母、漫画家の母、そして何者でもない私。 戦後史を背景に、鳥取の旧家に生きる三代の女たち、そして彼女たちを取り巻く不思議な一族の姿を、比類ない筆致で鮮やかに描き上げた渾身の雄編。

読後感:

 この作品にはう〜んと唸ってしまう。これは山陰地方鳥取県西部の紅緑村を舞台に、その時代背景から世の中の事件、変化をも伝えながら三代の女性の生き様を語る大パノラマなのである。 あたかも佐藤愛子の「血脈」を再び見るように。
 奇しくも 「血脈」 では物書きが職業であったのが、本作品の毛毬では少女漫画家の仕事であるのも因縁が深い?
 
 しかも、万葉、毛毬が凡人でなく、相当変わり者の登場であるのに、違和感もなくのめり込んでいって仕舞った。 そこには人の感情の機微、一筋の筋金の通った生き方、中でも二代目の毛毬が高校生であった頃の親友穂積蝶子との生き様が特に印象深い。

 そして毛毬の転換期が親友穂積蝶子の死であり、兄の泪の死である点とにかく死が入ってくると一変に物語が締まってくる。

 第一部が万葉が赤朽葉家に入って一員として地位を築いていく過程であり、第二部では毛毬の奔放な生き様と少女漫画家としての変身ぶりがめざましい。 さて第三部では一番凡庸人である瞳子のケースであるが、はてどういう物語の展開になるのかと思っていたら、これが恋人?とも言える多田ユタカと、祖母の死ぬ間際に残した謎の言葉 “わたしはむかし、人を一人、殺したんだよ。 だれも知らないけれど” について調べる話はミステリーそのものでこれまたおもしろい。 そして万葉の思いが切なく迫ってきた。

 この三つの部門の展開の仕方は物語の変化と興味を引っ張り続ける手法としてなかなかのものである。

   
余談:
 人生はなかなかずっと変わらず成長し続けることは難しい、浮いたり沈んだり結局はどっかで帳尻が合うように働くことを感じたのはこの物語だけではない。
 

           背景画は製鉄所の高炉(東田第一高炉(官営八幡製鉄所))のフォト利用。



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