登場人物:
河野咲子 |
眉山の見える徳島生まれ、大学は東京で一人活をしていたが、夏休みには戻ってきて阿波踊りの連「阿茶平」で踊る、大学を出た後、母の勧めに従い東京の旅行代理店に勤務。家族は母親と二人。 |
河野龍子
(母) |
“神田の龍”の威名をとるかって神田鍛冶町生まれのチャキチャキの江戸っ子。好きな人の子供を宿し、勘当同然に出奔、徳島に来て飲み屋の女将として財をなす。しかし、パーキンソン病を患い、店をたたみ、ケアハウスに入る決心をする。 |
大谷啓子 |
母の介護を引き受けるケアマネージャー。 |
寺澤大介 |
母が診断のために入院した病院の若い医師。とんだ発言で、龍子に手厳しくやりこめられるが・・・。 |
松山賢一 |
「甚平」の主人。昔河野龍子にえらく世話になった若者。龍子の店で働いていたが、龍子が店をたたむ時に退職金代わりに「甚平」を任せられる。 |
私的補足:
眉山 どの方向から眺めても眉の姿に見えることからその名が付いたと、徳島市のシンボル的存在である。
読後感:
さだまさしの哀調があり、優しさに満ちた人柄にぴったりの音楽に似て、この小説も優しさと心意気と、時に厳しさを織り交ぜてやんわりと包んでくれるそんな作品である。
癌に冒されていて辛い思いをしているだろうけれども、毅然とした態度の母、そしてそれを優しく見つめる周囲の人たち、そんな中でユーモアあふれるやりとりが心をなごませる。
咲子にとって知らないことを次々決めて驚かされながら、でも自分のことをこんなに愛してくれていたと知る。母が亡くなったら天涯孤独になってしまうと哀しみながらも、次第に一人ではないと分かっていく様子が、徳島の阿波踊りの季節を頂点にクライマックスへ。
最後に“献体”についての詳細が描かれているが、ちょうど現役の医者でもあり、物書きでもある南木佳士の「医学生」で解剖実習の時の描写を思い起こし、学生から見たその時の様子と、献体する側の娘から見た様子が思いやられ、なかなか難しい問題だなあと察せられる。
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