リリー・フランキー著 『東京タワー』


 

              2016-09-25



(作品は、リリー・フランキー著 『東京タワー』   扶桑社による。)

          
 

 初出 「en-taxi」(扶桑社刊)01号〜09号
 本書 2005年(平成17年)6月刊行。

       200万部を超す大ベストセラーとなり、2006年本屋大賞受賞。

 リリー・フランキー(本書より)

 1963年福岡県生まれ。武蔵野美術大学卒業。文章家、小説家、コラムニスト、絵本作家、イラストレーター、アートディレクター、デザイナー、作詞・作曲家、構成・演出家、ラジオナビゲーター、フォトグラファー・・など多彩な顔を持ち、ジャンルの壁を自由に往来しつつ活動。「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」は著者初めての長編。  

主な登場人物:


<ボク>
(中川雅也)
マーくん

3歳迄の記憶しかボクとオカンとオトンの三人家族であったことが。その後はオトンと別居、母親の実家筑豊の町でオカンとばあちゃんと暮らす。高校は家を出て別府に。大学は東京の美術専門学校に。

母親<オカン> 
栄子

ボクの育ての親、心のよりどころ。誰とでも仲良くやれていた。四人姉妹
・長女 ノブエおばさん
・次女 えみ子おばさん
・妹  ブーブおばちゃん

父親<オトン>
中川家

大学は中退、「帽子のデザイン」勉強のためデザイン専門学校に入校、東京のダメな人完成。
おじいちゃんの訃報で九州に強制送還。オトン27歳、オカン31歳の時結婚。酒乱。
・妹 敦子姉ちゃん 娘 博子

小倉のばあちゃん

九人の家族を育てなのに一人で暮らしている。
オトンとオカンとボクは暫く同居させてもらっていたが、オカンがボクを連れて筑豊に出て行く。別居した理由は・・。

筑豊のばあちゃん オカンの実家。
前野君

筑豊でのボクの友達。自衛隊に入隊。

ミッチャン
旦那さん 泰

ノブエおばさんの娘さん。夫婦してオカンによくしてくれる。
えのもと ボクがバイトしていた似顔絵教室の一番へたくそな生徒。俺んち来るかと僕が誘い同居。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

母と子、父と子、友情、青春の屈託に涙が止まらない。ナンシー関なき後、最強のコラムニスト、文章家と目されている著者が打ち立てた金字塔。現在の日本文化の、最も高い達成というべき傑作。

◇印象に残る場面:

・東京の大学に受かって、東京へ発つ前の日に、オカンがボクに言った「オトンと離婚してもいいかね?」に思ったこと:

 ボクを育ててくれたのは、オカンひとりなのだから。オトンは面倒を見てはくれるけど、ジョン
(ジョン・レノンのこと)のように育ててはくれなかった。そのための時間を持ってはくれなかった。口と金では伝わらない大きなものがある。時間と手足でしか伝えられない大切なことがある。
 オトンの人生は大きく見えるけど、オカンの人生は十八のボクから見ても、小さく見えてしまう。それは、ボクに自分の人生を切り分けてくれたからなのだ。

・オカンの日記の間に隠されていた紙切れに書かれていた文章:

母親というのは無欲なものです
 我が子がどんなに偉くなるよりも
 どんなにお金持ちになるよりも
 毎日元気でいてくれる事を
 心の底から願います
 どんなに高価な贈り物より
 我が子の優しいひとことで
 十分過ぎるほど倖せになれる
 母親というものは
 実に本当に無欲なものです
 だから母親を泣かすのは
 この世で一番いけないことなのです


読後感
  

 著者は深津絵里との大和ハウスのCMで馴染みの顔、人柄が偲ばれる人物と思っていて、ふと新聞にこの人物の著作が載っていて読みたいと思う。
 本作品は自叙伝というべきものか、自分(ボク)を中心に幼い時の小倉でのこと、オトンとの別居時代の筑豊でのオカンとのこと、そしてその時々の時代の変遷を含め、周りとの関わり合い、思い至る様々な感情の移ろいが記されていて、底に流れているのがオカンへの慈しみ、人生のやるせなさ、異端者、弱者への優しさなど色んな事が溢れていて、時々に何故か自然涙が溢れてきてしまっている。

 東京に出てきてからの大学時代の、貧困と目的を見いだせないでただただその日暮らしの毎日、オカンからは大変なのに仕送りを得、でも小倉のばあちゃんの死に涙を流すボク。
 考えること、思想は尊敬することも多いが、それに見合う行動になっていない姿に先はどうなるのだろうかと思ってしまう。
 ボクがどうにか仕事にありつき、暮らしになるようになっての様子では、オカンの事が話題の中心に。
 東京に出てきて一緒に暮らすようになり、最大の課題はオカンがガンに犯されそれに対応する様子。

 最後になるかもしれないと姉妹らも含めハワイに出かけたときの様子、さらに手術後のオカンの生き様は何か自分が闘病の様子を目の当たりにしている感じがして、しんみりとしてしまった。
 圧巻はオカンの葬儀の様子。いかにオカンが人に好かれ、人に分け隔てなく接していたか、その人柄がそんな時に現れるのかを知った思い。
 オトンとのことも思い至ることが多い。 

  

余談:

 この作品を読んでいる内に何故か佐藤愛子の「血脈」を思い出してしまった。やはり自叙伝的な作品であることと、人の生き様が胸を打つところが似ていて、感銘を受けた。
 ついでにニュースで高村薫のインタビューで、書斎に座る机のバックの本棚の真後ろにこの「血脈」がドンと据えられていたのが印象的で残像が瞼に残っている。

背景画は、清流をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

                    

                          

戻る