大沢在昌 『帰去来』



              2022-05-25


(作品は、大沢在昌著 『帰去来』        朝日新聞出版による。)
                  
          

 初出 「小説トリッパー」2009年春季号〜2018年春季号、書籍化にあたり加筆修正。
 
本書 2019年(平成31年)1月刊行。

 大沢在昌
(おおさわ・ありまさ)(本書による)

  1956年愛知県名古屋市生まれ。
 79年 「感傷の街角」で小説推理新人賞を受賞し、作家デビュー。
 86年 「深夜曲馬団」で日本冒険小説会最優秀短編賞。
 91年 「新宿鮫」で日本推理作家協会賞(長編部門)と吉川英治文学新人賞を受賞。
 94年 「新宿鮫 無間人形」で直木三十五賞を受賞。
 2001年「心では重すぎる」、02年「闇先案内人」で日本冒険小説大賞。
 04年 「パンドラ・アイランド」で柴田錬三郎賞。
 06年 「狼花 新宿鮫」で日本冒険小説大賞。
 14年 「海と月の迷路」で吉川英治文学賞を受賞。

主な登場人物:

[こちらの世界]
志摩由子

警視庁捜査一課、巡査部長。28才。
・父親 元警察官で殉職、享年47才。当時警視庁捜査一課の刑事。

木之内里貴(さとき) 志摩由子より2つ年下の後輩。大学を出て3年後に再会。付き合い始めるも、半年前上海に転勤、以降疎遠に。
津本班長

志摩由子の上司。
・山岡理事官 父と警察学校の同期生。
志摩由子を捜査一課に引っ張る。

[あちらの世界] アジア連邦、日本共和国、東京市 時代は光和26年
志摩由子

東京市警本部暴力犯捜査局捜査第一部特別捜査課課長、警視
孤高のやり手警視。
・父親(志摩順造) 陸軍省の元軍人、大佐。
現在も生きている、64才。

木之内里貴(さとき)

志摩警視の秘書官、警部補。
妻子持ち、志摩警視と同じ官舎の階下に住む。

高遠警視

組織犯罪課長、警視で要注意人物。汚職の噂あり。
・工藤係長 坊主頭の切れ者。

特別捜査課部下

解散された暴犯特捜隊の面々。里貴が呼び戻す。
・林 37〜38才。
・若手の桜井、松田

東新宿の闇市仕切り
羽黒組

・組長 羽黒浩次 軍人上がり。主に雑貨や衣料品中心。
・服部みつえ 羽黒の愛人。ガラガラ蛇みたいな女。
・トシ坊 みつえの弟。

西新宿の闇市仕切り
ツルギ会

・会長 糸井ツルギ婆さん。主に食料品、衣服中心。
・糸井の3兄弟 長男 タカシ、次男 ヒロシ
          三男 ソウシ 危険人物。

町村 四谷区の区長(新宿町のある区)。糸井ツルギは元愛人。
関圭次(けいじ)

ツルギの亭主(菊池英夫少佐)殺し。菊池の部下。陸軍の情報部にいた。偽名、無口で気持ちの強い男。
菊池と軍の兵器開発部で新兵器の開発に携わっていた。

志麻朝夫 志摩順造の弟。
竹河隼人(はやと) 「ナイトハンター」を名乗る16才の少年、自殺でケリ。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 警視庁捜査一課の女刑事・志麻由子は、何者かに首を絞められ気を失う。 目を開けると、そこは「光和26年のアジア連邦・日本共和国・東京市」だった。 やがて明かされるタイムトリップが起きた理由。由子は元の世界へ戻ることができるか?

読後感:

 20年前連続絞殺事件(犯人は「ナイトハンター」と名乗り、竹河隼人(16才)が自殺)、その10年後「ナイトハンター」の模倣犯と思われる連続絞殺事件(「チェーン殺人」)が発生し、捜査に当たった志摩由子巡査部長が、犯人に襲われ首を絞められつつ失神する。 目覚めたところが光和の年代の志摩由子警視という。 こちらの世界での出来事が展開する中、あちらの世界 (元の日本)に戻ることが出来るのか。 志摩由子の両方の家族の問題も絡まり、「ナイトハンター」、「チェーン殺人」の真相が明らかになっていく。
 しかし、同じ人物の名でも内容が異なっていたり、複雑な関係が絡まり合っていて、なかなか理解が行き届かない面があり、困った。

 こちらの世界では、東京の東新宿と西新宿での闇市を支配する、羽黒組とツルギ会の勢力争いに、東京市警本部の警察内部との癒着が絡み、相互のスパイの存在、特別捜査課志摩由子警視の孤高の存在に、 あちら側から舞い降りた(?)巡査部長だった志摩由子が、 警視として振る舞わなければならない立ち位置に置かれ、必死に役目を果たそうとする姿も興味深い。

 志摩警視を補助する秘書官役の木之内里貴警部補の協力の下、次第にこちらの世界の志摩由子警視に勝るとも劣らずになっていく過程、そして志摩警視にない優しさを持ち合わせていることも大いに認められる要素となっている。

 志摩巡査部長の父親は、元警察官で殉職しているのに対し、こちらの世界の父親である元陸軍省の大佐である妻は、自殺をしている(あちらの世界の母親は今も生きているのに対し)。
 そしてこちらの世界の父には弟(志摩朝夫)がいる点も異なる。

 こちらの世界と、あちらの世界を行き来することが出来る、いわゆるタイムスリップに関し、20年前の「ナイトハンター」事件と、10年前の「チェーン殺人」事件の犯人。 時間の規則性があるのか、自殺した竹河隼人と糸井ソウシ、関圭次と志摩朝夫なる人物の複雑さ・・・頭がおかしくなる。


余談:

 色んなことが絡み合いながら物語が展開していくが、よくぞ著者は頭の中が整理され、どのようにコントロールしていたのか、感心したり、尊敬したり。
背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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