大崎善生著 
          『ドナウよ、静に流れよ 』 


               2011-05-25

 (作品は、大崎善生著 『ドナウよ、静に流れよ』 講談社 による。)

             
 
 

本書 2003年(平成15年)6月刊行

大崎善生(よしお):
 
 1957年札幌市生まれ。 2000年、ノンフィクション「聖の青春」でデビューし、新潮文芸賞を受賞。以後、「将棋の子」で講談社ノンフィクション賞、「パイロットフィッシュ」で吉川英治文学新人賞を受賞。 2006年には「アジアンタムブルー」が映画化される。

◇ 主な登場人物

私(大崎善生) ノンフィクション作家。将棋雑誌の編集部に18年間勤めていたが退職、フリーに。 新聞記事に揺り動かされ、真実を探して取材活動に。

渡辺日実
父親 正臣
母親 マリア

ドナウ運河で同じく遺体で発見された千葉と30キロも離れた場所で発見される、19歳。高校卒業後、ひとりルーマニア国立芸術大学に留学生として一人寂しい生活をする。
場所クルージュ。
父親の正臣、CM制作で知られる。 先妻に二人の子供があることを日実に知らせず、また愛人をつくったことで日実に裏切り者の印を押される。
母親のマリアはルーマニア人、パリで正臣と知り合い正臣の離婚を待って結婚。 女流アマ将棋の強豪でもあり、凝り性、文化の違いなどから、正臣をひどい言葉で罵倒することも。

千葉師久(のりひさ)

指揮者と名乗る日本人男性、33歳。 ドナウ運河に遺体で発見される。 遺書に「宗教団体に追われている」と。
日実の周囲の人間は、千葉は危険人物だから付き合わないように忠告するも、日実はついていく。
取材から小さい頃精神科に入院していることが判る。

星野由香里
八代麻子

都立園芸高校時代の仲良し友達。 二人とも東京農業大学に進学するも、日実との付き合いは続く。
小笠原一也 高校時代の渡辺日実の親友の友達。 都立園芸高校卒業したばかりの18歳で暴走族に間違ってリンチを受け亡くなる。 その葬儀を手伝い、この事件で日実は非常なショックを受ける。
北野智也 ニューヨークで2年、油絵とデッサンを学んで帰国、26歳の時。 正臣から娘にデッサンを教えてと渡辺家に出入り。日実が大学受験に不合格の後付き合い出す。 智也に小笠原一也の事件を持ち出し「私は19歳で死ぬ」とたびたび繰り返す。
加藤仁美(ひとみ) ルーマニアの首都ブカレストに次ぐ第2の都市クルージュで日本の大学を卒業後、青年海外協力隊の派遣で日本語を教えている女性。日実と知り合う。
ディコビッチ美香 AAIに属するカトリック日本人共同体の世話役。 日実と千葉がウィーンでの最後の日々を、最も近くで見守っていた人物。

物語の概要:図書館の紹介文より

 地球の裏側から君の「声」が聞こえる…。留学中にドナウ川へ身を投じた19歳の少女。その死を報じる小さな記事に衝き動かされた「私」は、彼女の短すぎる生を追う旅に出た。衝撃の大河ノンフィクション。 

読後感:

“事実は小説よりも奇なり”の言葉どおり、一つの自殺事件の記事からどうにも引っかかって離れない事柄を調べていく内に、渡辺日実という女性の生い立ち、ひいてはその両親の生い立ちへと展開。さらに自殺の相手千葉師久なる人物の素性、生い立ちが次第に明らかにされるほどに、今まで読んできた小説とは違った世界での展開がそれがフィクションでないが故に痛烈に胸に迫ってくる。

 一方で、ノンフィクションであるが故に何とももどかしい思いも感じられる。それはノンフィクションであるが故に致し方ないことだとも思える。フィクションなら盛り上がりを工夫して展開すればもっと読者に迫ってくるだろうが、でもそのことがノンフィクショによる真実をより一層真実らしく感じさせてもいる。

 先に読んだ「ユーラシアの双子」との違いが、また「ユーラシアの双子」のなにかバックボーンを感じた作品である。

 日実の両親に対して烈しく罵倒する幼く、あけすけな言葉の遺書について両親は「ストレートに感情を表すこの叫びは、昔のままの日実です。私たちに対してだけは変わることのできないない、娘のままです」といって嬉しいと話す親の心理はなんとも深い。
 

印象に残る場面:


◇ラスト近く、日実にはもう手に負えなくなっていた千葉の状態。私の想像。

 もうこれ以上、人の好意に甘えるわけもいかない。どうすれば、千葉を救えるだろうか日実はそう自問し、自分をどんどん追い込んでいったのではないかと想像する。そして、たった一つの解決法を自分なりに見つけ出したのではないだろうか。
 千葉をこれ以上みじめにさせない。しかも日本に帰りたくないという彼の誇りを守るために自分ができる唯一のこと。
 

 死ぬこと。
 
 それも彼一人ではなく、自分も犠牲になること。そうすれば、千葉の人生は最後まで誇り高いものになるだろう。それはきっと自分の誇りにもなる。自分のこの思いを証明することにもなる。泣き喚き続ける恋人を目の前に、日実はそう考えたのではないだろうか。


作品中の地図より。

余談:
 この作品を読んでいて思うに、ハーフという人間を日本人はとかく偏見で見てしまう、いいにつけ、悪しきにつけ。でも本人にとってはむしろ外国の方がもっと自然な人間として認められる様子は理解に苦しくない。やはり日本人の島国根性はどうにもならないのだろう。少しでも理解出来ればと思う。

       背景画は、ドナウ川の風景より(ハンガリー辺り)。
       作品中では二人の飛び込んだ場所はウィーンの日常の生活の営みの真ん中、シュヴーデン橋よりとあった。 
       

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