読後感:
“事実は小説よりも奇なり”の言葉どおり、一つの自殺事件の記事からどうにも引っかかって離れない事柄を調べていく内に、渡辺日実という女性の生い立ち、ひいてはその両親の生い立ちへと展開。さらに自殺の相手千葉師久なる人物の素性、生い立ちが次第に明らかにされるほどに、今まで読んできた小説とは違った世界での展開がそれがフィクションでないが故に痛烈に胸に迫ってくる。
一方で、ノンフィクションであるが故に何とももどかしい思いも感じられる。それはノンフィクションであるが故に致し方ないことだとも思える。フィクションなら盛り上がりを工夫して展開すればもっと読者に迫ってくるだろうが、でもそのことがノンフィクショによる真実をより一層真実らしく感じさせてもいる。
先に読んだ「ユーラシアの双子」との違いが、また「ユーラシアの双子」のなにかバックボーンを感じた作品である。
日実の両親に対して烈しく罵倒する幼く、あけすけな言葉の遺書について両親は「ストレートに感情を表すこの叫びは、昔のままの日実です。私たちに対してだけは変わることのできないない、娘のままです」といって嬉しいと話す親の心理はなんとも深い。
印象に残る場面:
◇ラスト近く、日実にはもう手に負えなくなっていた千葉の状態。私の想像。
もうこれ以上、人の好意に甘えるわけもいかない。どうすれば、千葉を救えるだろうか日実はそう自問し、自分をどんどん追い込んでいったのではないかと想像する。そして、たった一つの解決法を自分なりに見つけ出したのではないだろうか。
千葉をこれ以上みじめにさせない。しかも日本に帰りたくないという彼の誇りを守るために自分ができる唯一のこと。
死ぬこと。
それも彼一人ではなく、自分も犠牲になること。そうすれば、千葉の人生は最後まで誇り高いものになるだろう。それはきっと自分の誇りにもなる。自分のこの思いを証明することにもなる。泣き喚き続ける恋人を目の前に、日実はそう考えたのではないだろうか。
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