逢坂 剛著  『カディスの赤い星』




                   
2009-09-25



(作品は、逢坂剛著 『カディスの赤い星』(上)(下)講談社文庫による。)

          


本書 2007年2月刊行

逢坂剛:
 

 1943年東京生まれ、挿絵画家の中一弥の息子。幼少期に母が病死し、父子家庭で育つ。中央大学法学部卒、博報堂に勤務する傍ら執筆活動。1997年31年勤めた同社を退社し、作家となる。ギターとフラメンコをこよなく愛する。


主な登場人物 

漆田亮(りょう)
(わたし)

漆田PR事務所所長。日野楽器は最も古い得意先の一つ。
大倉幸祐(こうすけ) 同事務所員
河出弘継 日野楽器広報担当常務 50代半ば。日本楽器:業界でも5指に入る大手メーカー。太陽楽器はライバル会社。
新井進一郎 日野楽器広報室長 40代半ば。
那智理沙代 広告会社萬広PR局、PRウーマン。萬広:有数の大手広告会社。26-27歳独身。
大野顕介 太陽楽器の取締役宣伝部長。
槇村真紀子 全日本消費者同盟書記長。
槇村優 槇村真紀子の息子。爆弾のスペシャリスト。
ホセ・ラモス スペインのギター製作家。孫娘のフローラと来日して、サントス・エルナンデスのギターを探して欲しいと日野楽器に。
フローラ ラモスの孫娘。マドリード大学で日本語専攻。日本列島解放戦線に爆弾闘争のスペシャリストを捜しに。
津川 陽 通称パコ、ギタリスト。フローラの恋人。
清水宏紀 通称マノロ、ギタリスト
高井修三 通称サントス、ギタリスト
佐伯浩太郎 通称アントニオ、ギタリスト
サンチェス スペイン治安警備隊の少佐
ロコ スペイン右翼団体JEDRAの攻撃隊長(殺しや)
アンヘル スペイン左翼過激派FRAPの闘士。フランコ総統を狙う。


読後感:

 読んで行くに従い、先に読んだ「あでやかな落日」と調子が似ていて、あまり感動が湧いてこなかった。なるほど内容自体は異なっているし、飽きずに読めるのだが、何となくこれが直木賞?と思ってしまった。今までにも直木賞作品は読んできたが、たとえば作家の初期の作品の場合でも、荒削りであっても、そこには引きつけるものを感じていたのに、この作品の場合は何も残らないという風と上巻では感じていたが、下巻を読み終えて少しその印象が代わった。特にスペインに出張していた2週間の出来事では、さすがスペインが好きな著者だけあって、熱気が伝わってくるものがあった。

 選考委員の評をチェックしてみたら、1000ページ以上の長編を飽きさせず、筋の乱れもなく最後まで引っ張っていく力量はさすがというのが多かった。
 中に「読んだ後残るものがなかった」と言うものもあったのには同感。

 なにか高村薫の「レディ・ジョーカー」を読んだ後、読み手に感動を呼び起こしてくれる作品に飢えてしまったかな。毎回毎回そんな作品に会えるとは思わないけれども。おかげで、最近読んでいく途中で中断してしまうのが多くなったよう。

 村上春樹の本が話題になっているが、宣伝文句を信用すると馬鹿を見るので、やはり長く読み継がれてきた作品を選ぶのが無難だけれど、まあ、色々読む中で素敵な感動作品に出会うのもいいのかなあと、気持ちを広く持つことにしよう。



  

余談:

 著者のあとがきを読んでみて、この作品が生まれた事情が分かった。処女作ではあったが、何年も日の目を見ぬままで、先の「百舌の叫ぶ夜」が売れ、多少注目を浴びてから九年を経って本小説の原稿を読んでみようという編集者が現れたとか。しかし、長編過ぎるので二百枚を削るよう注文を出され、ブラシュアップに取りかかるも、小説としては洗練されるかも知れないが、処女作の持つ熱気が失われるおそれがある・・・という言葉には全く感じ入った。全くその通りだろうなあと・・・。

背景画はスペインカディス大聖堂のフォトを利用。

                    

                          

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