◇印象に残る表現:
守屋恭吾が海軍時代の同僚牛木利貞と終戦後、鎌倉の円覚寺で交わす言葉:
「俺は、外にいて、この戦争では日本の全部が焼かれても仕方ないと思い、また、その方が新しく日本が出発するのにもいいように考えていた。しかし、帰ってきて、戦災のむごい姿を見ると、そうは云えなくなった。殊に、京都奈良の寺や仏像が残ってくれたのは確かに良かった。・・・・
二十年捨て児のようになって外国で暮らしてきた男が、日本に帰国して見て、自分をこの国土につないでいるものを求めるとしたら・・・まったく、俺に思いがけないことだった。古い寺や社が、神仏に信仰もない俺を、なんで、こう惹き附ける力があるのかと思う。どこも焼野とバラックばかりだからなあ、牛木君。・・・あるいは町のなかの小さい路地でもいい、古びた農家でもいいのかも知れぬ。国籍を失った俺に、不思議な心の動きといってよい。魂を寄り掛けて休息したい、と求めているようだ。」
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