小野寺史宜 『 いえ 』



              2022-04-25


(作品は、小野寺史宜著 『 いえ 』    祥伝社による。)
                  
          

 
 本書 2022年(令和4年)2月刊行。書き下ろし作品。

 小野寺史宜
(おのでら・ふみのり)(本書による)

 千葉県生まれ。2006年「裏へ走り蹴り込め」でオール讀物新人賞、08年「ROCKER」でポプラ社小説大賞優秀賞を受賞。著書に「ホケツ!」「家族のシナリオ」「ひと」(以上、祥伝社文庫)、「まち」(祥伝社文芸四六判)、「みつばの郵便屋さん」シリーズ、「食っちゃ寝て書いて」「タクジョ!」「今夜」「天使と悪魔のシネマ」「片見里荒川コネクション」「とにもかくにもごはん」「ミニシアターの六人」など。 

主な登場人物:

[三上家の家族構成] 江戸川区平井に住む。荒川沿いの海抜ゼロ地帯。

三上傑(すぐる)
<おれ>

大学を出て4月で3年目スーパー「ハートマート両国店」に勤務、 25才。
・店長 高萩康久
(やすひさ)
・部門チーフ 間瀬徳巳
(とくみ)、29才。

妹 若緒(わかお) 大学3年生。志望はIT関係で就活中。交通事故で左足を引きづる。
父親 達士(たつし) 都立高の教頭、55才。
母親 春 専業主婦、52才。物静かな人、繊細。昔は働いていた。
城山大河(たいが)

おれの友達。 サッカーも勉強も能力高い。 大手の住販会社に勤務。妹の若緒と付き合っていた。

石垣汐音(しおね) 大河のカノジョ(大河が若緒と別れた後)。 おれとは中学の同期生。
バレー部の女子キャプテンだった。出版取次の会社に勤務。

[ハートマート両国店]関係者

・間瀬徳巳(とくみ) 部門チーフ、29才。
・泉田さん パートのリーダー的存在。おれとのトラブル多い。・花木、佐橋さん パート従業員。

[中学時代のサッカー部]仲間

・古里航輔 小学校から同じのおれの友だち。
・大河 サッカーではレギュラー。
・森岡亮栄
(りょうえい) 役者志望のフリーター。サッカー部ではおれと同じ補欠。

[三上家の近所の人々]

・江藤くん おれより1つ年下、24才。尾瀬出身で、引越のバイト一人暮らし。
・郡くん 隣の一戸建てに住む高校生。両親は札幌に転勤。

美令 おれのカノジョ。 ふりかけをつくる会社の社員。 大規模ではないが、全国に支店や営業所がある。 阿佐谷のアパートに住んでいる。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 社会人3年目の三上傑には大学生の妹、若緒がいた。 最近傑は妹のことばかり気にかけている。 傑の友だちであり若緒の恋人でもある城山大河が、ドライブデート中に事故を起こしたのだ。家族に、友に、どう接すればいいのか。 思い悩む傑は…。

読後感:

 三上家家族の、若緒に起きた交通事故で、日頃の出来事に変化が生じる。
 原因は、おれの友だちの城山大河(たいが)が運転していて、急な右折で歩行者に気づき急停車したところを直進してきた車が衝突、助手席の若緒が左足を引きづることになる障害を負ったことで。

 若い女性の身体に起きた大変なことが、両親は元より、おれの気持ちにも大きな変化をもたらす。 もちろん若緒本人はいうに及ばず。 読者も想像しただけで涙が止まらない。

 父親は学校の教師ということで、大河が悪いとは言わない。 母は事故の前は、若緒が大河と付き合っていることを気に入り、喜んでいた。 しかし、若緒の足に障害が出てからは、大河を悪者に扱うように。
 当事者の若緒は、大河は悪くないと。 かたや、おれはというと、大河はおれの友だち、どう反応したらいいのか・・・。

 会社でも、サッカー仲間との飲み会でも、若緒のことを思い出すようなことがあると、居ても立っても入られないで、異常な反応をしたりする。
 家の中では、両親の口げんかが、今まではあっさりしていたのが、母のしつこさが際立つように。 父は母に謝ったりすることが多くなり、母は京都の実家に行ったきりに。

 物語は三月から十月までの、おれの周りに起きるさまざまな出来事が描写されていて、季節の移り変わりでおれの、若緒の、三上家の変化が現れる。
 そのどれも納得がいくことばかりで、著者の思いと、読者の思いが重なり合って、深く胸に突き刺さる。
 加害者となってしまった大河との交流は途絶え、果たしてどんな気持ちでいるのだろうか。
 事故後、若緒と別れて4ヶ月で汐音と付き合っている噂も。

 特に心を揺さぶられるシーンは、
・傑
(すぐる)と美緒のやりとりで、傑がどうしても気を遣ってしまう言葉のやり取りの様子。
・大河のカノジョとなる汐音が、傑に、どうしても自分で伝えたいと、大河と付き合い始めたこと、大河の様子を告げるシーン。
・傑のカノジョとなる美令との、交際に到る、美令とのやり取りは、ほのぼのとしていて、こんなカノジョとなら、悩み多く、意地汚い傑でも優しい気持ちになること間違いなし。
・若緒と傑の会話の中で、就活での面接の時の様子、吐露する言葉の気持ちの揺れと、それを克服していく様子。
 なんだか全てのような気がする。


余談:

 傑のカノジョである美令が自身の父親が過去に逮捕されたことがあることを話し、傑に城山大河のことを許せるかを問い告げる言葉が印象的。
「結局、傑は自分を許せてないんでしょ。」「それとも、自分は許して、大河くんのことは許せない?」「大河くんを許せなきゃ、自分のことも許せないと思うよ」そして言う「ごめん。 ちょっと酔った」「忘れて」と。
 傑は思う。
 一度の過ちを許せない? 過ちを犯した人はもう身内ではない? たぶん、おれは美令にそう問われてる。 おれが思っている以上に美令はおれのことを見てくれてるんだな。心配してくれてるんだな。

背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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