小野寺史宜 『 ひと 』



              2021-12-25


(作品は、小野寺史宜著 『 ひと 』    祥伝社による。)
                  
          

 
本書 2018年(平成30年)4月刊行。書き下ろし作品。

 小野寺史宜
(おのでら・ふみのり)(本書より)

 千葉県生まれ。2006年「裏へ走り蹴り込め」でオール讀物新人賞、08年「ROCKER」でポプラ社小説大賞優秀賞を受賞。著書に「ホケツ!」「家族のシナリオ」(小社刊)「みつばの郵便屋さん」「東京放浪」「その愛の程度」「ひりつく夜の音」「近いはずの人」「リカバリー」「本日も教官なり」「それ自体が軌跡」などがある。

主な登場人物:

柏木聖輔(せいすけ)
<僕>
父親 義人
(よしと)
母親 竹代

大学2年生(法政大の経営学部)の時(20歳)両親亡くして全くのひとりの身に。大学辞め、ひょんなきっかけで砂町銀座の「おかずの田野倉」でバイト生活を始める。
・父 東京青梅出身、日本橋で居酒屋「やましろ」で働いた後、鳥取で店「鶏取」をやっていた料理人。車の自損事故で3年半前死亡、47歳。
・母 鳥取出身、父の死後半年突然死。

軽音サークル<ノイズ>のメンバー

僕はベース担当。
・篠宮剣
(しのみや・つるぎ) いい意味での適当さ。
・川岸清澄
(きよすみ) 法学部生。
 母親 いよ子さん 清澄から僕の話を聞き、 昼飯に招いてくれ、「いつでも食べさせてあげる」と。

船津基志(もとし) 母の親戚。鳥取での母の葬儀や遺品の整理などの面倒を。
僕に金の無心をしてくる。
尾藤蕗子(ふきこ) 母と仲の良かった女性。

井崎青葉
(旧姓 八重樫)

鳥取で高校3年の時同じクラス。 今は首都大学東京(昔の都立大)の学生。母親(看護師)の再婚事情もあり、 今は一人東京に。
・高瀬涼
(りょう) 慶応大学生。青葉の元カレ。
断られても、改めてもう一度付き合おうと青葉に迫る。

[おかずの田野倉]の人たち

・店主 督次、67歳。人情味溢れる人物。
・奥さん 詩子
(うたこ)、65歳。
・芦沢一美 37歳。ダンナと別れ、一人で準弥くん(14歳)を育てている。
・稲見映樹
(いなみ・えいき)24歳。督次さんの友人の息子。
 要領がいい。手の抜き方が抜群にうまい。
 野村杏奈さんと付き合っている。
・僕 調理師試験を受けられる条件に見合うよう働くことに。

砂町商店街の人々

・「おしゃれ専科出島」
 滝子さん、62歳。一人でやっている。今はフラフラのダンナ:貞秋さんと、猫。
・「リカーショップコボリ」
 ちさとさん、30前後。娘 天使のようなちなつちゃん、3歳。
 小堀進作さんと息子の裕作さん(ちさとさんの旦那さん)

丸初男(まる・はつお) 日本橋の居酒屋「やましろ」の料理人。父義人と2年位一緒に働いていた。
山城時子 銀座で「トリラン(鶏蘭)」のオーナー。日本橋の「やましろ」の元オーナー。元々のオーナー山城力蔵さんの後を継ぎ、何年かして銀座に。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 柏木聖輔は20歳の秋、たったひとりになった。大学を中退し、仕事を探さなければと思いつつ、動き出せない日々が続く。そんなある日の午後、商店街の惣菜屋でコロッケを見知らぬおばあさんに譲った。それが運命を変えるとも知らずに…。

読後感:

 17歳で父が亡くなり、20歳で母が亡くなり、ただ一人になった柏木聖輔(20歳)は、東京での大学を辞め、バイト先を探して砂町銀座に。お金もわずか、たまたま「おかずの田野倉」という総菜屋でおばあちゃんに50円のコロッケを譲ったことから、店主の督次さんとのやりとりから、バイトで働くことになる。
 幸運なことに、たまたま訪れてきた井崎青葉(鳥取での高校3年生のクラスメイト)と会話を交じわすことから、親密に。

 総菜屋でのお店の人たちとの、そしてお客さんとのやりとり。大学時代の軽音サークル仲間との交流。鳥取の母の親戚者との面倒な出来事。
 そして父が東京で過ごしていた土地や料理人として働いていたお店や土地を訪ね、当時のことを知る様子。さらに聖輔の将来のことを考えての行動。
 その心の支えにもなる青葉との交流が展開する。

 まさに20代の初めの青春時代の不安と、切なさと、人の情けが溢れる内容に、胸がじんとしてきて、勇気をもらえる作品である。
 川岸清澄の母親いよ子から、銀座のママ山城時子から、さらにバイト先の「おかずの田野倉」の店主から「もっと人を頼っていいんだよ」と聖輔にかけられる言葉が胸に浸みて涙があふれでた。
 こんな優しい人たちが周りにいたら、生き方も変わってくるだろうに。何もない身だから、人の優しさを感じられ、八重樫青葉との交流も、同じ環境、同じような身分でいる二人だから親密さも人一倍に感じられるのだろう。


余談:

 作品の内容で印象に残った出来事:
・青葉が付き合っていた元カレ(高瀬涼)のこと。別れた理由に。
 電車内での優先席での行為。そういう所にわたしも心が狭かったと思う。
(他の席が空いてても、優先席に座っちゃう。混んできたら移ればいいよって。
 また、おじさんとおばさんが前に。その時座ったままその二人に、座りたいですかって聞いた。高瀬くんはわたしに、いいってさって。結局そのまま座り続けた。
 高瀬くんの言い分:これ見よがしに目の前に立って譲られるのを待つ。そういうの、おれはいやなんだよ)
 無理に言うなら、高位にいる善人ゆえの鈍感さ、だろうか。上空から見ていると地上すれすれで起きていることには、気づけない、とでもいうような。

・横断歩道でのこと:
 向こう側で誰かが信号を待っているとする。他人。全く知らない人。で車は通らない。だから渡っても危なくない。その人も、急いでれば渡るかもしれない。でもその時は、待ってる。
 高瀬くんは、普通に渡っちゃうの。待ってるその人に向かって。すぐ脇を通ったりする。急いでなくてもそうしちゃう。それでわたしに言う。車も来ないのに信号を待つようなやつにはなりたくないね。そんな、時間を無駄づかいするようなやつにはさ」と。
 その人にちょっといやな思いをさせることは事実。高瀬くんは、そんなふうには考えない。他人同士でも、人は人なんだから、横断歩道を挟んで向き合った時点である種の関係性はできてるでしょ?高瀬くんは、そういうのに無頓着なの。で、わたしはそれがちょっとツラい。

◆ 特に横断歩道のことについては、自身も考えてしまったりするが、本作品のことを思い、止まることにすると思う。

背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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