小野寺史宜 『ひりつく夜の音』



              2021-12-25


(作品は、小野寺史宜著 『ひりつく夜の音』    新潮社による。)
                  
          

 
本書 2015年(平成27年)9月刊行。書き下ろし作品。

 小野寺史宜
(おのでら・ふみのり)(本書より)

 1968年、千葉県生まれ。2006年「裏へ走り蹴り込め」でオール讀物新人賞を受賞。2008年、第3回ポプラ社小説大賞優秀賞受賞作の「ROCKER」で単行本デビュー。 他の著書に「カニザノビー」「みつばの郵便屋さん」「牛丼愛 ビーフボウル・ラヴ」「それは甘くないかなあ、森くん」「片見里なまぐさグッジョブ」「みつばの郵便屋さん 先生が待つ手紙」「ホケツ」「その愛の程度」がある。

主な登場人物:

下田保幸(しもだ・やすゆき)
<僕>

元「井村勝とロンサム・ハーツ」のクラリネット奏者、 46歳独身。今は時たま入るパートと、週2日の音楽教室の講師の、一日の食費500円の貧乏暮らし。売れていたとき田舎の四葉に小さな家を練習用に買って今は住む。
「ロンサム・ハーツ」関係者

ディキシーランド・ジャズのバンドで、トロンボーンの井村さんが35歳の時立ち上げ。
・井村勝 リーダー。去年の7月亡くなり、解散に。
・小川栄 僕の前にクラリネットを。僕の師匠。 54歳で去るとき、僕(まだ20代前半)を正式メンバーに推してくれた。
・小川努
(つとむ) 小川栄の息子。トランペッターとして。

小川努
奥さん 理花

トランペッター。仕事は仕事とプライベートの時間を割いてまでやらない。36歳の時みつばに2階建ての家を建てて住む。子供はいない。父親の栄さんは奥さんが亡くなり、同居することに。
・理花さん。大学卒業後大手企業に。家を購入できたのは奥さんのおかげ。

井村満(みつる)
奥さん 秋子
息子 夏樹

井村勝さんの息子。市役所の職員に。
結婚して夏樹君生まれる。
・夏樹 音楽に興味、プロに、ヴォーカル。

草木精二

カフェ「ジャンブル」(ジャズクラブ)のマスター。
時々僕に仕事を廻してくれる。

佐久間音矢
母親 留美

ギタリスト、22歳。人間形成するのに重要な期間、文字通りたらい回しされ、高校を出て家を出た。母親からは、困ったときは下田を頼るようにと。こないだバンドを辞めた。
・留美 12年前(音矢10歳)脳に腫瘍ができ亡くなる。
 高校卒業して東京の大学に。バイト先で僕と出会い、付き合っていたが、僕がクラリネットに注力することで自然と別れた。

鈴森朋子(ともこ)
娘 菜緒

高校の時の同期生。音楽部ですぐ隣でクラリネットを吹いていた。12年前離婚、娘(菜緒)を引き取り苦労して育てる。
今はスーパーのレジ係。ショッピングモールでの演奏に、朋子が出向いてきて再会する。
・菜緒 大学を出、大手食品会社に勤めて2年。音楽そのものは好き。
・井南
(いなみ)先生 音楽部の顧問。朋子の元夫。

高倉乃々(のの)

フリーのライター。僕と同じ、朝食バイキングの常連客。
コラムに僕のことを取材したいと。

岸弁護士 佐久間音矢のトラブル相手の恐喝に対する仲介弁護の恩人。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 元、いや現役のクラリネット奏者下田保幸。年収はパート並でスーパーの安売りが数少ない楽しみ。楽器に触ることはもう、ほとんどない。だが、その夜、警察から電話がかかってきて…。男のための超絶号泣小説。

読後感:

 音楽の世界も時代の変遷で衰退していく分野があり、そこで演奏していた人の生活がプロといえども大変な様子がひしひしと伝わってきた。
 でも、貧しいなら貧しいで上を見なければそれなりに楽しみを見つけられることを再認識し、勇気づけられる思いも。

 ディキシーランド・ジャズのバンドでクラリネットを吹いていた主人公の下田保幸、バンド解散後も含め、なんとか30年やって来て今は46歳。 当時練習用に買った四葉の小さな家があるため、なんとか音楽教室のバイトと声が掛かって演奏する生活での貧しい暮らしの中にいる。
 そんな生活の中で展開する出来事が淡々と展開する。中で印象的なのは、高校時代に同じブラスバンド部でクラリネットを先に吹いていた鈴森朋子との28年ぶりの再会。そしてデートで朋子が自分の言葉で話せる人だから、全ての話をしあったシーンに、何故かジーンとくるものが。

 そして、初めて愛した相手といえる、大学時代付き合っていたが、クラリネットに注力することで自然と別れてしまった佐久間留美の息子音矢との出会い。音矢の、相手との接触事故から警察から呼び出しを受け、付き合いが始まった出来事。音矢が母親から死ぬ前に聞かされた「どうしても困ったことがあったら頼りなさい」と下田の名前を。そして母親の教え「人に迷惑はかけるな。ルールは守れ」とぐどくど言われ、ある種の軌道に乗ったうえでの無軌道ぶりにやきもきさされる僕。

 僕の師匠である小川栄が言った言葉「何にしても、あれだ。守るべきものは、守っていけよ。ひとつだけでいいんだ。でもそれだけは守れよ。安売りはするな。」
「音楽家の誇りのようなもの。魂のようなもの。それだけは守れ。」そのようなことを。
 そして僕が佐久間留美に受け売り、留美が音矢に同じことを言った。
 僕が留美に言ったとき、「それは音楽と。だから留美は僕の一番大切なものとはなり得ない」と宣言したようなものだ。がつらい。


余談:

 著者の作品にある「ひと」(2020年刊行)に感銘を受け、「ライフ」(2019年刊行)、「ひと」に続き手にした作品である。「ひりつく夜の音」(2015年刊行)を読んでいて感じたことは、「ひと」の方が表現に成長の後を感じ、読者の胸にすっと入ってくる気がした。 (ちょっと偉そうかな。)
 もっとも、内容が「ひりつく夜の音」が自分のよく知らない音楽分野のことで、曲名などほとんど知らないことが多かったからかも知れない。
 音楽業界の奏者の事情も大変な世界なのだなあと改めて認識。 

背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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