小野寺史宜 『 縁 』



              2021-12-25


(作品は、小野寺史宜著 『 縁(ゆかり) 』    新潮社による。)
                  
          

 
本書 2019年(令和元年)9月刊行。書き下ろし作品。

 小野寺史宜
(おのでら・ふみのり)(本書より)

 1968年千葉県生まれ。2006年「裏へ走り蹴り込め」で第86回オール讀物新人賞を受賞してデビュー。2008年「ROCKER」で第3回ポプラ社小説大賞優秀賞受賞。著書に「みつばの郵便屋さん」シリーズ、 「ナオタの星」「ホケツ!」「ひりつく夜の音」「家族のシナリオ」「太郎とさくら」「本日も教官なり」「リカバリー」「人生は並盛りで」「夜の側に立つ」「その愛の程度」「近いはずの人」「それ自体が奇跡」「ひと」2019年本屋大賞第2位「ライフ」などがある。

主な登場人物:

[霧]

室屋忠仁
(むろや・ただひと)
<僕>

大学(地理学科)卒業後中堅の土木会社に。実務経験を積み測量士資格を取る。ボランティアで少年サッカーのコーチに誘われるも、メンバーの少年の依怙贔屓を疑われ、退職。
リペアショップに勤める。

小牧美汐(みしお)
息子 寛斗
(ひろと)

技術レベルが劣るがサッカー好きの少年(寛斗)の母親(離婚歴あり)。室屋が寛斗を試合に出すことで非難を受け、「無理に試合に出していただかなくてもいいです」と。
中町逸平(いっぺい) リバーベッドSC(サッカークラブ)のコーチ。
[塵]

春日真波(まなみ)
<わたし>

人材派遣会社勤務。玉井令太と付き合っていたが、物の見方が合わず別れる。同期の副島衣沙の不倫はイヤなことで、人事部にメールだそうかと。
大学時代パパ活で知り合った田村からもらった傘を壊し、リペアショップに。

玉井令太 真波と同じ会社の女子に人気の男。真波と別れたことで他の女子が・・。
副島衣沙(いさ) 真波と同じ課の同期。笑顔が素敵。真波と同じ合コンでの相手と、真波を差し置いて大手広告代理店の2歳年上の相手と結婚へ。
田村洋造

大手印刷会社の課長。春日真波が大学時代のパパ活の相手。
(パパ活:食事やショッピングを共にするのみ)今は部長と。

[針]
田村洋造<おれ>

15年前、妻の不倫を疑ったことで離婚、52歳。息子が高校生とラブホに泊まったことで、相手の父親から怒鳴り込まれ、母親の春乃から対処を頼まれる。
高3の同窓会で岡崎友惠から、息子の就職を頼まれ・・・。

土佐隆吾(りゅうご)
母親 春乃
(はるの)

田村洋造の愚息の息子、25歳。大学卒業しても、今はコンビニデバイト生活。
・春乃 おれの別れた妻。隆吾の後始末を頼む。

岡崎友惠

高校三年の時のクラスメイト。離婚して息子と二人暮らし。
開かれた同窓会で、田村洋造に息子の就職の口利きを頼む。

[縁]

岡崎友惠<わたし>
息子 瑞哉

兼松家で通いの家政婦、52歳。離婚後、息子と二人、都営住宅住まいの貧しい生活。
・瑞哉 大学三年生、21歳。コンビでバイト。少年時代リバーベッドSCでサッカー。良く出来た息子。
・元夫 鵜沢孝厚(うざわ・たかあつ) 大手石油会社の子会社(販売会社)に30代半ばで出され、グチばっかり。で離婚する。

兼松豊子
息子 通郎
夫 六郎(没)

軽い認知症気味、82歳。友惠を信用していて、金庫の中をしばしば確かめたいと。夫からの誕生祝いの、壊れた折り畳み傘と現金500万円が入っている。
・通郎 父親と同じ大手鉄鋼会社の部長、52歳。
通帳の他、管理は通郎がしている。独身。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 人は人を傷つける。けれど、予期せぬ「縁」がそれを救うこともある。地味だからこそ心にしみて、ホッとする。疲れたときこそ読んでほしい、人間の「つながり」を描いたあたたかな読後感のものがたり。

読後感:

 それぞれの章(霧、塵、針、縁、終)に登場する主人公の人物ないし、関する人物が、その章で<僕>なり、<わたし>なり、<おれ>なりになって、その人物になって語りを受け持っている。従って、同じやり取りが重複して語られることが出てくる。
 以前に読んだことのある手法だなあと思う。

 さて、「霧」に出てくる室屋忠仁は荒川の河川敷を利用しての少年サッカークラブのコーチとして誘われるも、上手くはない少年にも機会を与えたいという主義だが、少年の母親とも親しくなるにつれ、依怙贔屓の噂がたち、止め、仕事も退職し、リペアショップで働くことにする。
 お客との接触も多いことから、その他の章での物語に図らずも影響を及ぼすことになる。

[塵]に登場する田村洋造は年齢も52歳と大手印刷会社の部長と物わかりのいい、頼りある人物のごとく振る舞っていたが、何のことはない、[針]や[縁]ではその実態が判ってしまう。ごく普通の冴えない、エゴイ(?)人物だったと。でも息子のことに対しては、父親として威厳のある振る舞いや、パパ活の相手の春日真波に対しての言動はさすが年長者。

 何故か胸につまされたのが、[縁]の岡崎友惠の離婚して、一人で息子を育て、息子にも苦労をさせたことで、大学を卒業しての就職では、親としてなんとか希望の職種に付けるよう役に立ちたいと田村洋造に会社には入れるよう頼む姿に。
 物語に登場する人物たちの姿は、ごくありそうな風景で、 [終]にあるようにふとした言葉や、出来事で思いとどまらせたり、振り返らせたりと、ホットする讀物だった。


余談:

  この所小野寺史宜作品を好んで読んでいる。
「ライフ」(2019.5)、「ひと」(2018.4)、「ひりつく夜の音」(2015.9)、「縁」(2019.9)と。
 ネットに小野寺史宜作品のおすすめランキングなるものがあった。上位に「ひと」「ライフ」「縁」が入っていた。自分も結構いい線を選択していたことか。
背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
戻る