恩田陸 『消滅』



              2020-04-25


(作品は、恩田陸著 『消滅』      文春文庫による。)
                  
        

 本書 2018年(平成30年)10月刊行。

 恩田陸:
(本書による)  

 1964年宮城県生まれ。92年「六番目の小夜子」でデビュー。2005年「夜のピクニック」で吉川英治文学新人賞と本屋大賞、06年「ユージニア」で日本推理作家協会賞、07年「中庭の出来事」で山本周五郎賞、17年「蜜蜂と遠雷」で直木三十五賞と本屋大賞を受賞。主な作品に「球形の季節」「三月は深き紅の淵を」「光の帝国」「ライオンハート」がある。

主な登場人物:

[入管時特別室に連れてこられた人物]たち
小津康久(おず・やすひさ) 日焼け男。マレーシアから帰国。大企業のエンジニア。
大島凪人(なぎひと) 色つきサングラスの、白髪交じりの長髪の男。大手出版社でそこそこの地位。出張帰り。離婚して、娘の梨音は元妻のもと。

岡本喜良(きら)
<乗りヒコ>

飛行機好きの首にヘッドホンの童顔青年。デザイン事務所で空間プロダクトデザイナー。
三隅渓(けい)

ガラガラ声の女。バックパーカーのような身なりの中年女性。医者。中東の難民キャンプなどにずっと居て、5ヶ月ぶりの日本。

成瀬幹柾(みきまさ) ごま塩頭の男。アメリカから久しぶりに甥っ子の結婚式に出席のため帰国。豆腐工場を経営。
伊丹十時(ととき) 鳥の巣頭の背の高い青年。天文学者の道を選ぶ。

若い親子

黒澤希菜(きな)、聖斗(きよと)
少年は未来が見える?

ぶっきらぼうな親父 山中貞之。皮肉や、人材派遣業でトラブル収拾係と言うが。
中年女 市川香子(きょうこ)
キャスリン 若い女。無表情、無頓着、周りを拒絶するようなヒューマノイド。
ベンジャミン・リー・スコット 灰色パーカーの男。天才プログラマー。ゴートゥヘルリークスを立ち上げたアメリカ人。全米に指名手配され、亡命先求めて・・ロシア拒絶、今日本に。伊丹とは幼馴染み。子供の頃イギリスの学校で一緒。
コージー犬 空港での麻薬探索犬。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 超巨大台風が接近し封鎖された空港で、別室に連行された11人+1匹。この中に、テロを計画する首謀者がいるという。それぞれが秘めた「事情」「思惑」は何か。閉鎖空間での推理合戦が始まった。

読後感:

 巨大台風が来るその日、帰国した面々が入管時に特別室に集められ、この中にテロリストが居るとして探し出すことを求められる。
 部屋に何時間も閉じ込められ、お互いに会話をし疑心暗鬼も、次第に仲間的な感情も芽生えたかに見えてきた。
 しかし台風による高潮警報で周りには誰も居なくなっている筈。しかも帰国から通信障害で外との連絡は取れない。

 そんな中、入管職員の案内人として存在するキャサリンと名乗る女性はヒューマノイド。
 その性能は驚くほどのもので、ただ人としての感情の表現、物言いの言い回しに若干違和感があるのはご愛敬。真面目で嘘をつかないその態度は、なかには好ましく思われていたり。でも当局の命令で行動しているのは間違いない。
 何時間も閉じ込められ、疲労が積もりゆっくり休みたいと部屋を移動する段になり、個室に移されるところで恐ろしさを感ずることに。

 集団でいる間は何故か安心感があるのに、個別になると何があるか分からなくなること。さらに他の人がどういう状況になっているのか知らされないことのその不安感。
 丁度現在新型コロナウイルスが世の中で蔓延しようとしている中、“孤独な肺炎”の話が出てきて、同じような境遇が描写されていることに恐ろしさを感じたり。
 果たしてテロリストがこの中にいるのか、ラストはどういうことになるのか・・・。
 ラストは予想だにしなかったSFの世界が・・・。


余談:

 この作品を読む前に冲方丁著の「十二人の死にたい子どもたち」を読んでいて、また十一人の中にテロリストがいて、それを見つけ出す密室劇が展開するのかといささか戸惑った。
「十二人の死にたい子どもたち」では、それぞれのサトシとかケンイチとかシンジロウとかの名字で謎解きがなされたため、誰が誰だかよく分からずじまい。
 今回恩田陸作品では、がらがら声の女性とか、ヘッドホンの青年とか、日焼け男、鳥の巣頭の青年とか人物のキャラクターでの記述であったため人物像が頭にスッキリと入ってきてなかなか理解の助けになった。流石だなあと感心。
 

背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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