恩田陸著 『麦の海に沈む果実』

                  
2022-12-25

(作品は、恩田陸著 『麦の海に沈む果実』       講談社による。)

         

 初出 「メフィスト」1998年10月号〜1999年9月号
 本書  2000年(平成12年)7月刊行。

 恩田陸(おんだ・りく)本書による)

1991年の、第三回日本ファンタジーノベル大賞の最終候補作となった「六番目の小夜子」(新潮社)でデビュー。 ホラー色の強い作品であったが、綾辻行人氏を始めとする若手ミステリー作家の注目を集める。著作は「球形の季節」(新潮社)「不安な童話」(祥伝社)「三月は深き紅の淵を」(講談社)「像と耳鳴り」(祥伝社)「月の裏側」(幻冬舎)など。

 主な登場人物:
[三月の王国]の人々

三月一日から新学期とする、陸の孤島(湿原の海に浮かぶ三角形の「青の丘」)に500人足らずの全校生徒がここで暮らしている。
来た目的では
“ゆりかご”組 過保護で環境の整った上品なところに送り込        まれてきた。
“養成所”組 何か特別な職業に就きたくて。
“墓場”組 これが大多数。
      何らかの家庭の事情があって、存在を望まれなくて。

水野理瀬

二月に転入してきたもうすぐ三年生、14歳。周囲からは不吉な異端児のように見られている、美しい容姿の女の子。
1年前に事故に遭って、あたしという人間の記憶を失っていると告白。

[理瀬]のファミリー
(三月から新年度での年代で示す)

・聖(ひじり) 六年生、リーダー格。成績優秀。
・光湖
(みつこ) 四年生。彫りの深い顔立ち、混血児。
・黎二
(れいじ) 四年生、鋭い瞳、挑戦的なまなざし。
・寛
(ひろし)五年生。大柄、おおらかな人柄。指揮者希望。
・俊市
(しゅんいち)三年生。プロのテニスプレーヤー目指す。
・薫
(かおる) 二年生。俊市といとこ同士で同じことを目指す。

憂理

理瀬のルームメイト。背の高いスタイルのいい美しい少女。
舞台女優を目指す。

ヨハン

理瀬より一日遅れて、三月になって転入してきた、理瀬より一つ年上。 ヨーロッパの大富豪、超大物の跡取り息子。 女性徒たちの人気者。
ヨハンのこと、見た目通りの天使でないと気づいていた憂理。

麗子(れいこ)

女の子だが、子どもの頃から男として育てられていた。
精神的に不安定なところがあり、黎二になついていたし、黎二も男の子として面倒をよく見ていた。

麻理衣 1年生、繊細な子。現職大臣の娘。“墓場”組。
亜紗美(あさみ)

校長の親衛隊の一人。 ヨハンにまとわりついていた女子生徒。 ヨハンは迷惑がっている。

修司

校長の親衛隊の男の子。校長は手なずけるのがうまい。
麗子が刺す。

校長

理事長(校長の父親)から実権を握る人物、四十代後半の人物。校内では女装、外では男性。

  物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

「三月の学園」に災厄をよぶ2月の転入生。 湿原の真中に建つ奇妙な学園に転入してきた水野理瀬。不思議な年中行事だらけの学園生活をおくる彼女の隠された秘密とは。
 
読後感:

 湿原を見渡せる陸の孤島に存在する広大な「青の丘」に建つ学園内に起きる殺人事件。 そこに暮らす生徒たちは大半が家庭から見捨てられた“墓場”組が大多数。 そんな中、絶対的権力を持つ校長の素性が不可思議。 そんな学園に通常は三月以前に編入させないところに、二月の終わりに水野理瀬なる美貌の少女が転入してきて、理瀬の周りに次々と起こる不可思議な事件(殺人事件であったり、なんとかの理由をつけて校長が親元に帰ったとか、自殺したとかと説明)、生徒の出入りが激しい。

「三月の学園」に、二月の終わりに転入してきたことで、周りから不吉扱いされる理瀬は、ルームメイトの憂理の性格に助けられ、ファミリーとも次第になじむようになる。
 ヨハンは、理瀬と違い、三月一日に転入してきて、その美形で全女生徒から言い寄られることが多いが、理瀬と仲良くなる。

 さて、学園での不可思議な出来事は、理瀬が子どもの頃の記憶をなくしていることから、自分が何者であるのか不安で、精神的に不安定なところがあり、虚脱状態になったり、不可思議な事象とも絡み、精神的に不安定になっている。
 ラストに向かって、校長、理瀬、麗子の素性が明らかになっていくことで本作品は「理瀬」シリーズのほんの幕開けかと思わせられた。

 恩田陸作品、なかなか現実の世界の話でなく、なんとも不可思議な世界にいるようで、引き込まれたり、驚かされたりが多いのでは?


余談:

 先に読んだ恩田陸の「薔薇の中の蛇」に出てきて、正体の不明だったヨハンなる人物がこの作品に出ている。大富豪の息子だが、跡継ぎだったら相続できるが、多くの異母きょうだいがいて、誰が相続するかは未定という状態らしい。

 

 

                    

                          

戻る