恩田陸著 『蜜蜂と遠雷』








              2019-02-25

(作品は、恩田陸著 『蜜蜂と遠雷』      幻冬舎による。)
          

  初出 「星星峡」2009年4月号〜2013年11月号、「ポンツーン」2014年1月号〜2016年5月号の連載を大幅に加筆・修正したもの。 
  本書 2016年(平成28年)9月刊行。

 恩田陸
(本書より)
 1964年、宮城県生まれ。92年「六番目の小夜子」でデビュー。2005年「夜のピクニック」で第26回吉川英治文学新人賞および第2回本屋大賞を受賞。06年「ユージニア」で第59回推理作家協会賞を受賞。07年「中庭の出来事」で第20回山本周五郎賞を受賞。17年本作で第156回直木三十五賞および第14回本屋大賞を受賞。著書多数。
      

主な登場人物:

[コンテスタント] 芳ノ江国際ピアノコンテストの出場者
風間塵(かざま・じん)

パリ国立高等音楽院特別聴講生の16歳。ユウジ・フォン・ホフマンに5歳より師事。父親が養蜂家で行く先々でピアノを弾く。
審査委員の間ではヴィヴィットなところが評判余り良くないみたい。

栄伝亜夜
(えいでん・あや)

13歳の時舞台の直前母親を亡くし、母親(最初の指導者)を喜ばせたい為にピアノをやっていたのが無に。ドタキャン。消えた天才少女。
その後も音楽は続けていたが、浜崎学長に音大に呼ばれ、恩を感じている。

高島明石
妻 満智子

大きな楽器店の店員。ピアノは天才少年や少女のものではないと、生活者の音楽に怒りと疑問を持っていてコンクールに挑戦、28歳。・妻の満智子は幼馴染みで孝行の物理の教師。夫を支えている。

マサル・カルロス・レヴィ・アナトール ジュリアードの王子様。優勝候補の一人。ナサニエル・シルヴァーバーグの愛弟子。栄伝亜夜とは幼馴染み。
[審査委員関係者]
嵯峨三枝子 パリでのコンクールで風間塵の演奏時、審査員のアラン・シモン、セルゲイ・スミノフとの説得に妥協し、風間塵を優勝させた。嫉妬から拒絶?
ナサニエル・シルヴァーバーグ 数少ないホフマンの弟子の一人。風間塵に対し異常なほど関心を示している。自分がホフマンの一番弟子と自負。
オリガ・スルツカヤ 審査委員長。赤毛のロシア美女。厳格な人、正統派の演奏を好む。
ジェニファ・チャン アメリカ人。優勝候補の一人。
[その他]

ユウジ・フォン・ホフマン
妻 ダフネ

音楽家の重鎮。今年2月亡くなる。風間塵に推薦状を残し、知人には「僕は爆弾をセットしておいたよ」と。
浜崎奏(かえで) 栄伝亜夜の理解者。浜崎(日本で三本の指に入る名門私立音大の学長)の次女。亜夜とは仲良し。亜夜に対する才能を見る目が自分にあることをこのコンテストで証明したい。
菱沼忠明

作曲家。二次予選の課題曲「春と修羅」の作曲担当。途中にカデンツァがある。ユウジ・フォン・ホフマンと親しい。
カデンツァ:独奏協奏曲などで、独奏楽器が無伴奏で即興的に演奏する部分。

仁科雅美(まさみ) TV局の人間。高島明石の高校時代の同級生。コンクールの密着取材を申し込む。
田久保寛 ステージマネージャー。コンテスタントを舞台に送り出すときに掛ける言葉が優しい。
浅野耕太朗 ピアノ調律師。

補足:芳ノ江国際ピアノコンテスト(世界五カ所の大都市で行われるオーディションのひとつ。モスクワ、パリ、ミラノ、ニューヨーク、そして日本の芳ケ江)
     一次予選通過者 5日間の開催で90人、演奏時間20分。
     二次予選通過者 3日間の開催で24人、演奏時間40分。
     三次予選通過者 12人、演奏時間60分。
     本線      6人。オーケストラと一緒に演奏。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 
私はまだ、音楽の神様に愛されているだろうか…。数多の天才たちが繰り広げる競争という名の自らと闘い。ピアノコンクールを舞台に、人間の才能と運命、そして音楽を描き切った青春群像小説。          

読後感:

 これはすごい。登場人物の人物像描写、音楽の演奏時の表現、評価がそれぞれの予選での評価が画一的でなく、それぞれ別の表現で審査員、演奏者、関係者それぞれ違って語られるところがすごい。しかも並の音楽小説と違って極平易に読者に伝わってきて、次の予選ではどんな風に表現するのか、この人物にはどんな風に受け取られているのか。

 また、仲のいい理解者にどんな風に感じ取られたのか、例えば風雲児と目される風間塵に対する評価はどんな風に影響を及ぼしたのかとか、とにかく影響を及ぼし、及ぼされていったのかも興味が尽きない。
 そしてコンテスタントの大変さ、その中で世の中でこのあとどういう人生が待っているのか、しかも一握りの人しか生活者としては成り立たない世界で・・・と考えてしまったり。

 そんな中、魅力ある人物が多い中、栄伝亜夜と高島明石に関心が湧いた。
 亜夜は天才少女として評価されていたが、指導者でもある母親がコンサートの直前に亡くなったことでショックを受け、舞台をドタキャン、世の中からのバッシングを受け、忘れ去られていたが、音楽はずっと続けていた。そしてその才能を評価している私立音大の学長に拾われた恩があり、コンクールに参加することにした経緯がある。そして予選を経験する中で、幼馴染みのマサルとの再会、そしてその演奏に触発され、さらに風間塵という自然体で型にはまらない見事な演奏が起爆剤となり、亜夜を超弩級に進化させていった。その過程や描写がワクワクさせる。

 一方、高島明石は日常の生活者として働きながら、時間を見つけて音楽に関わりつつ、恵まれた人間だけがピアノに携わっていられるれることに反発をしている。そんな自分でもどこまでやれるかを目指している。しかしコンクールに参加し、コンテスタントの演奏を聴くにつれ、こんな場に身を置くことが出来、音楽そのものに楽しさを、音楽をやっていくこと意欲が湧いてくる過程がいい。
 

余談:

 本作品「蜜蜂と遠雷」の著者の、音楽に関する知識はどんなものだったんだろうかと感心してしまう。こんな作品を書くにはすごい労力が必要だったのでは。
 時を同じく、吉田修一著の「国宝」(上)(下)を読んでいた。この作品も歌舞伎界にまつわる役者の世界を扱っていたが、歌舞伎の世界も一般人にはなじみが薄いが、それほど知らなくても作品としては非常に面白く読めたが、やはり作品として書き上げるには相当な労力が必要だったんだろうと推測された。作家というのは全く大変な仕事と改めて尊敬の念を抱いた。
     

背景画は、花をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

           
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