恩田陸著 『木洩れ日に泳ぐ魚』



              2018-08-25



(作品は、恩田陸著 『木洩れ日に泳ぐ魚』    中央公論新社による。)

          

 
 初出 「中央公論」2006年1月22日号〜2007年2月22日号まで連載に、加筆したもの。
   本書 2007年(平成19年)7月刊行。 

 恩田陸:
(本書より)
 
 1964年宮城県生まれ。早稲田大学卒業。92年、第三回日本ファンタジーノベル大賞最終候補作「六番目の小夜子」でデビュー。以降、ミステリ、SF、ホラーなど幅広い分野で精力的に執筆活動を行っている。2005年、「夜のピクニック」で第二回本屋大賞、第二十六回吉川英治文学新人賞をダブル受賞。06年、「ユージニア」で第五十九回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)を受賞。07年、「中庭の出来事」で第二十回山本周五郎賞を受賞。  

主な登場人物:

高橋千浩(ちひろ)
<僕 ヒロ>

1年前の夏休み、20代の私たちは、あの男がやっているS山地のガイドを申し込み、その時あの男が転落死した。
私たちの間は変わってきて最後の別れの夜を迎えた。

高橋千明
<私 アキ>

3歳まで一緒に暮らしていたが、よそに貰われていった。
内向的な所がある。

僕が小学校に上がる前再婚する。小さいとき千明を余所にやってしまったことを後悔している。
あの男 母が妊娠してことを知らずに別れた、放浪癖の男。S山地のガイドをしていて、今は結婚、2歳の子供がいる。
高城雄二 私と同じサークルの先輩。2年近く付き合っていて、海外赴任で一緒に来てとプロポーズするも断られる。
川村実沙子 僕の付き合っている女性。同じサークルの2学年下の子。文部科学省に入った研究者。素朴で野性的。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 1組の男女が迎えた最後の夜。明らかにされなければならない、ある男の死の秘密。それはすべて、あの旅から始まった…。運命と記憶、愛と葛藤が絡み合う、恩田陸の新たな世界。山本周五郎賞受賞第1作。     

読後感:

 1年前の夏、ヒロとアキと名乗り、S山地にガイドと三人で巡る旅で起きた事故は果たして事故だったのか、それともどちらかの仕掛けたものなのか。
 ヒロとアキ、二人の仲は兄妹なのかそれとも恋人なのか。

 一緒に暮らしていたアパートを去る夜に交わされるやり取りが、間に1年前の出来事やそれぞれの幼少の頃からの生い立ち、恋人とのこと、1年前の事故の罪について、そしてそれぞれを疑う思いを持ちながら、翌朝まで僕と私が交互に語り者として展開していく。

 幼少の頃の古い大きな柱時計のことをアキが覚えていなかった事に対しておや?と違和感を覚えたり、代名詞(彼とか彼らとか、あの男とか)が多用されていてハッキリとしないことにいらだったり、時間の観念が現在進行形と過去のことが入り交じっているその不確実性に読者はいらつかされる。

 とはいえ、あの男の転落死の推理と、ヒロとアキの関係の謎が明かされて二人の感情の先行きはよく分からないで終わった。
 物語の中で、夏目漱石の「こころ」の先生を、自殺した親友が一生先生を縛り付けているとの語りが意味深である。
  
余談:

 最初文庫本を手にして読み始めたが、なかなか物語の中に入り込めていけずにいたが、図書館で申し込んでいた単行本が届いて再び読み始めた。
 不思議なことに単行本ではわりとすっと話の中に入っていけることに驚く。どうも目に入るスペースの広さが余計な雑念を払いのけてくれるのでは。
 ちょうど大画面のテレビで見るのと小さな画面で見るときの臨場感に差があるのと同じではと思えた。
 

背景画は、森・木をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

           
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