恩田陸 『 訪問者 』



              2020-10-25


(作品は、恩田陸著 『 訪問者 』      祥伝社による。)
                  
          

 初出 月刊「小説NON」(祥伝社刊)
   第一幕 せいめいのれきし     平成14年 1月号
   第二幕 ももいろのきりん     平成14年 5月号
   第三幕 ちいさいおうち      平成14年 9月号
   第四幕 かわいそうなぞう     平成15年 1月号
   第五幕 ふるやのもり       平成15年 5月号・9月号
   最終幕 おおきなかぶ       平成16年 1月号
   本書の刊行に当たり加筆・訂正。

 本書 2018年(平成30年)5月刊行。

 恩田陸:
(本書より)  
 
 1964年、宮城県生まれ。早稲田大学卒。92年、第3回日本ファンタジーノベル大賞の最終候補作となった「六番目の小夜子」でデビュー。以後、ミステリーやSFをはじめ、多彩なジャンルで軽やかな作風ときらめく感性で第一線の活躍を続ける。2005年に「夜のピクニック」で第59回日本推理作家協会賞長編部門、07年に「中庭の出来事」で第20回山本周五郎賞をそれぞれ受賞。

主な登場人物:

井上唯之(ただゆき)
長田

有名雑誌週刊Kの記者と名乗るも・・。御しやすそうなおっとりとした男。実は峠昌彦の顧問弁護士。遺言状を持参。
・長田 カメラマン。無口だけどいい男だと思わせる感じの良い笑み。

朝霞(あさか)千沙子
(没)
夫 大治郎(没)

大治郎の死後朝霞家の当主を継ぐ。事故死と言われているも、夜中に独りでボートなんかに乗るなんて・・・。
・大治郎 朝霞グループを創設、後継には千沙子を指名。

朝霞家の家族

長男 千蔵 大治郎の財団法人の理事長。腺病質で線細い。
次男 千次 気難しげな印象の髭の男。大学で歴史を教えている。
三男 千衛(せんえい) 恰幅のいい黒眼鏡、ぼんぼんといった風情。
末っ子 宮脇千恵子

宮脇協一郎 千恵子の夫、写真家で一流の写真家ではなさそう。千恵子の資産を当てにしている。
更科裕子(さらしな) 家政婦兼ヘルパー。看護師、調理師何でも兼ねられて有能。

羽澤澄子
(はざわ・すみこ)
娘 愛華

旦那から逃げながら働いている。昌彦と同じ時期に「愛華苑」にいた子供だった。
・愛華 10歳くらい。家庭に問題があってほとんど「愛華苑」に住み着いている。

峠昌彦(没)
母親 昌子
(あきこ)

映画監督、39歳。ここ数年海外の映画祭で続けて賞を獲得。
雨でスリップ、車ごと川に落ち死亡。事故死と見なされている。
幼年時代、千沙子が昌子と昌彦を「愛華苑」に連れてきた。
・昌子 朝霞千沙子の女子校時代の後輩。昌彦を「愛華苑」に置き去りにし、どこかの飲み屋の男と駆け落ち。浅草の路上で滅多刺しで発見される。

小野寺敦(あつし) 昼間は劇団員、26歳。“アサカ”と名乗る女性に幽霊役を依頼され、仕事を終え戻ろうとしたら崖崩れで朝霞邸に身を寄せるはめに。

補足:「愛華苑」は入所していた人間と我々だけが知っている通称。
表向きの正式名称は「朝霞の丘児童苑」。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 警告、訪問者に気をつけろ。顔のない男、映画の謎…。ひとくせもふたくせもある人物が集まった嵐の山荘に、死の影が忍び寄る。閉ざされた山荘を舞台に、至高のストーリー・テラーが贈る傑作ミステリー。

読後感:

 閉ざされた山荘(旧家朝霞邸)で繰り広げられるミステリー。
 週刊Kの記者として乗り込んだ井上は、実は映画監督の峠昌彦の顧問弁護士。昌彦の遺言状を携え、昌彦の父親探しとその遺産相続を目論見乗り込むも、嵐の夜となり、次々と訪問者が現れ、昌彦の父親探しと昌彦の事故死、朝霞千沙子の湖での転落死が果たして殺人ではないかの真相が明らかになっていく。

 登場人物が限られているので、状況は分かりやすいが、展開はアガサクリステイの小説もどきで次々に起きる不可思議な出来事に引き込まれていく。
 館には「訪問者に気を付けろ」と言う警告の手紙が届いていて、次々に訪れてくる人物がいるが、誰のことを指しているのか。
 更には、朝霞の家族の個性がひと癖もふた癖も(・気難しい千蔵・悪戯っぽくおきゃんだった千恵子・磊落な千衛・驕慢さを覗かせていた協一郎)あり、羽澤
(はざわ)澄子、愛華親子の様子も意味深。

 その上、小野寺敦という何か探偵もどきの推理を語る真相は、果たしてあたっているのか。
 中立的立場らしき井上唯之(ただゆき)の思惑も困惑気味。
 ラストの結末は先代の朝霞大治郎の思慮深さが潜んでいたという所か。
 でも意外性も隠されていて著者の策に翻弄されたという所。


余談:

 映画監督であった峠昌彦の脚本「群盲、象を撫でる」の内容は:
 一人の女の生涯のさまざまな場面を、時系列もバラバラで投げ出すような形で並べて、観客に背後関係や場面のつながりを想像させるのがテーマ。
「つまり、ある女の存在自体が『象』であるというわけだね。ある人間を理解しようとしても、その一部にしか触れていなければ、その人間の全体は理解できないと」
 この昌彦が大事にしていた「象」は葬儀の時お棺に入れて焼かれたはずだが、嵐の夜玄関にその「象」が置かれていたことで騒ぎとなった。 

背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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