奥田英朗著  『我が家の問題』、『家日和』
 

                2016-01-25

(作品は、奥田英朗 『我が家の問題』、 『家日和』   集英社による。)

           
『我が家の問題』
 初出  「小説スバル」
     甘い生活?     2010年2月号
     ハズバンド     2009年11月号
     絵理のエイプリル  2010年5月号
     夫とUFO      2010年11月号
     里帰り        2010年9月号
     妻とマラソン    2011年2月号

 本書 
2011年(平成23年)7月刊行。

『家日和』
 初出  「小説スバル」
     サニーデイ     2006年10月号
     家においでよ    2006年2月号
     グレープフルーツ・モンスター 2004年9月号
     夫とカーテン    2005年7月号
     妻と玄米御飯    2006年12月号
 本書  2007年(平成19年)4月刊行。


 
奥田英朗:(本書より)
 1969年岐阜県生まれ。雑誌編集者、プランナー、コピーライターを経て、
 1997年「ウランバーナの森」で作家デビュー。
 2002年「邪魔」で大藪春彦賞、2004年「空中ブランコ」で直木賞、
 2007年「家日和」で柴田錬三郎賞、
 2009年「オリンピックの身代金」で吉川英治文学賞を受賞。
 著書に「ララビボ」「ガール」「無理」「町長選挙」「純平、考え直せ」など。
主な登場人物:
『我が家の問題』
<甘い生活?>

田中淳一(32歳)
妻 昌美
(まさみ)

営業部の会社員。2ヶ月前結婚するも、妻の側に何の落ち度もないのに、家に帰りたくない症候群。仲間に打ち明けることで少しは心が軽く。
妻はOLで寿退社の30歳。尽くすタイプ。

奥村敦子 淳一の同期、制作部の独身で切れ者と社内で評判の女性。
<ハズバンド>

井上めぐみ
夫 秀一

夫の秀一は大手事務機器メーカーの営業マン。
妻のめぐみは年明けには第一子が生まれてくる。
夫が会社のお荷物?の感じにマタニティー教室に通い仲間内での話題で知恵を絞り・・・。

<絵理のエイプリル>

浜田絵理
弟 修平

高校3年生。祖母の間違い電話を受け、両親が離婚を考えていることにショックを受ける。
弟の修平は2つ年下のこの春高校生になったばかり。バスケ部、鈍感で無邪気な弟。

絵理の親友たち。

・奈緒 絵理と同じクラス。
・翔子 別のクラスの子。成績優秀、作家志望。
・朝美 別のクラスの子。家庭内で手紙を書くような家族。

<夫とUFO>

高木達生(たつお)
(42歳)
妻 美奈子
子供たち

達生は名のある私立大卒の営業マン。お人好しで恋愛に不器用。
美奈子は第一子が生まれたのをきかけに専業主婦。戸建てを買ったばかり。夫がUFOを見たと言い出したことに不安な気持ちが・・・・。
子供たちは中一の娘美咲、小5の息子でサッカー狂いの大樹。

<里帰り>

岸本幸一(30歳)
妻 沙代(29歳)

中堅IT企業の技術者。結婚して3ヶ月、長男で実家は札幌。東京タワーのみえる港区の高層マンションが新居。
妻の沙代は大手デパートで催事の仕事をする、一人娘。実家は名古屋。
夏休み帰省話が・・・。

<妻とマラソン>
大塚康夫(46歳)
妻 里美
子供たち
小説家、自宅に書斎。万事に面倒臭がり屋。5年前N文学賞をとる。
妻の里美は専業主婦。ボランティアやロハス活動に精を出していたが、自然消滅。このところランニングに精を出している。
双子の恵介、洋介は中3の受験生。

『家日和』
<サニーデイ>

山本紀子(42歳)
夫 清志
子供たち
・由佳、祐平

専業主婦歴15年。インターネットオークションにこり出す。
夫の清志は若い頃ギターやオーディオプレーヤーの名器と言われるものを持っているが今は眠っている状態。
子供たちは由佳は受験勉強中の中3,祐平は部活に夢中の中1。

<ここが青山>

湯村裕輔(36歳)
妻 厚子
息子 昇太

コンピューター関連会社の広告営業で14年間勤めていた会社が倒産。
変わりに妻の厚子は前の職場に再復帰。主夫代わりとなった祐輔は家庭内の仕事や料理に充実感を感じる。

<家においでよ>

田辺正春(38歳)
妻 仁美
(ひとみ)

アパレル会社の平凡な営業マン。ひょんな事から妻は自分の家具類を持って新居に出て行った。残された部屋は何もない殺風景さに・・・。
妻の仁美は大手家電メーカー勤務のインダストリアル・デザイナー。

酒井
妻 順子

正春の同僚。

<グレープフルーツ・モンスター>

佐藤弘子(39歳)

子供二人

東京の郊外、新築一戸建てにすむ専業主婦。DMの宛名書きの内職を始める。
内職の発注元の営業マンは今週代わったばかりの無神経で図々しく物言いが不愉快な若い筋肉質の男。
夫は課長に昇進毎日忙しい日々。子供二人は小学生。

<夫とカーテン>

大山栄一(34歳)
妻 春代

今の会社に転職して1年なのに、カーテン屋を始めると言いだし行動に移す。
妻の春代は自宅でイラスト描く仕事。

<妻と玄米御飯>

大塚康夫(42歳)
妻 里美
息子 恵介、洋介

名のある文学賞を獲り初のベストセラーとなった小説家。

佐野夫妻 ロハス推進派の夫妻。

物語の概要(図書館の紹介記事より)

『我が家の問題』
 完璧すぎる妻のおかげで帰宅拒否症になった夫。両親が離婚するらしいと気づいてしまった娘。里帰りのしきたりに戸惑う新婚夫婦…。誰の家にもきっとある、ささやかだけれど悩ましい6つのドラマ。

『家日和』
 ネットオークションにはまる専業主婦、会社が倒産し主夫となった営業マン、ロハスに凝る妻に辟易する小説家…。ちょっとズレても家庭は続く。夫と妻の心の機微を軽妙に描き出す、ビター&スウィートな「在宅」小説。

読後感
『我が家の問題』

 六話の短編であるが、どれも家庭で起こりそうな話題でこれまた頷くことだらけ。
<甘い生活?>は長く独身生活に慣れてきた男が結婚したときに起きる一人になりたい症候群の話。完璧すぎる妻も夫にとっては負担に感じる時も。

<ハズバンド>は職場での夫の評判を気にかける話。仕事が出来ない夫、職場のお荷物?になっているのではを心配をする妻。それが弁当作りに励むと弁当を通して夫から会社の様子が見えてくる。グッドジョブ!といいたくなる。

<絵理のエイプリル>では両親の離婚がテーマ。祖母の間違い電話で両親の離婚の可能性を知ってしまった娘の絵理。学校で仲良し四人組の仲間に打ち明けたり、先生方に聞いたりと世の中に意外と多い離婚をしている人が多いことを知る。そして改めて日頃の夫婦の様子を観察することに。今まで自分の家の世間しか知らなかったが、色々聞く内に考えが備わってくる。一方日頃の馬鹿さ加減の弟も以外やしっかりと親の離婚のことに対して自分の意見を持っていることに感心したり。親の離婚も子供にとってはどのように映るのか興味津々のテーマ。

<夫とUFO>では夫が突然UFOの話をし出したことで会社で何かあったのではと気遣う。鋭く夫を追求しないでそっと見守る妻の姿はやはりあって欲しい姿。

<里帰り>では結婚3ヶ月、初めての夏休みでの実家への帰省にまつわる煩わしさや相手の実家での居づらさに身を切られる思いは同じ。でもいざ里帰りしての結果は心配していたほどでなく、むしろ行ったことの方が良かったことにそんなもんかなあと。
 それにしても相手の実家に行ったときのお嫁さんなり、旦那さんの気持ちは痛いほど分かる。この作品の中で一番感情移入してしまった話であった。

<妻とマラソン>では「家日和」で出てきた作家の夫と専業主婦となった妻の夫婦。そして「我が家のヒミツ」でも取り上げられている家庭の様子。
 N木賞作家となって今まで付き合ってこれた世界とは離れてしまった妻、そして中3の子供たちも少し離れて、自分の位置が独りぼっちになってしまっている様子にみえる様に心を砕く夫。
 そんな妻がマラソンに精を出して変わっていく家庭の様子が暖かい。

 いずれの短編も相手を思いやる心情があふれていて、どこにでもある家庭内の出来事がいきいきと息吹いている。

◆『家日和』

 先に読んだ「我が家のヒミツ」と同じく六話の短編である。面白かったので最初に出た本作品も読んだ。
<サニーデイ>ではインターネットオークションの世界を覗いてみたようで、面白かった。やってみてもいいか。

<ここが青山>ではまず「人間至る処青山在り」(ジンカン=世の中、セイザン=墓場)を知ったことに得。料理作りに興味を持つ姿に納得。幼稚園の息子のブロッコリー嫌いに弁当に入れる料理の工夫で父と子の戦いに破顔。この短編が一番身につまされて興味を持った。

<家においでよ>では妻と別居に成った独身男が自分の部屋の調度品や趣味のAV装置に没頭、同僚も集まってまるで学生時代のような生活状態に昔を懐かしむ。そんなことを通して妻と夫の世界観の違いに気づかせられる点も懐かしいやら。

<夫とカーテン>では夫の栄一の行動力というか向こう見ずさ、脳天気ぶりにあきれそうになるが、単刀直入、素のままに相手とぶつかる営業の姿がなんともうらやましい。そんな夫の姿に困りながらも応援する妻の姿もうらやましい限り。

<妻と玄米御飯>では社交が嫌いで建前を好まず会社を辞めて小説家になった康夫。気が大きくなった妻は仕事を辞め佐野夫妻の影響を受けてロハス思考に。迷惑なのは子供たちと短編小説のアイデアに苦しむ康夫の姿がユーモラス。

<グレープフルーツ・モンスター>は経験上身近に感じられなかったことで上述の作品ほどは感じなかったと言うことで。
余談1:『我が家の問題』

 これらの短編に出てくる夫はお人好しで威張らず、人付き合いはむしろ苦手。誠実、そんな姿が多い。一方の妻はやはり尽くすタイプ、気がやさしく夫のことを影ながら心配、同僚などに話を聞いてどんな様子かを気にかけ内助の功に徹するタイプが多い。
 従って安心して読んでいられるし、ほんわかとした気分になる。そしてどういう風に展開するのかと術中にはまってしまう。子供たちの姿も親とは離れているようでいざという時は協調精神がよみがえる、そんな姿が浮かんでくる。幸せ風である。


余談2:『家日和』

 やはりごく一般の家庭の出来事をテーマにした作品で、かっての自分の様子を再現されていたり、そんなこともありそうな風景に感情移入したり。
 最後はそんな出来事の後に見方や考え方を思い返して、暖かな気持ちに帰ったり、ちょっぴり反省したりと暖かなお話に。


参考:
・家日和     2007年(平成19年)4月刊行。
・我が家の問題  2011年(平成23年)7月刊行。
・我が家のヒミツ 2015年(平成27年)9月刊行。

背景画は、作品の内表紙を利用。

                    

                          

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