奥田英朗 『罪の轍』



              2020-01-25


(作品は、奥田英朗著 『罪の轍』    新潮社による。)
                  
          

 初出 「小説新潮」2016年10月号〜2017年9月号、11月号〜2019年3月号。
    単行本化に当たり「霧の向こう」を改題。

 本書 2019年(令和元年)8月刊行。

 奥田英朗:
(本書による)  

 1959(昭和34)年、岐阜県生まれ。プランナー、コピーライター構成作家などを経験したのちに、1997(平成9)年「ウランバーナの森」で作家デビュー。2002年「邪魔」で大藪春彦賞を、2004年「空中ブランコ」で直木賞を受賞する。2007年「家日和」で柴田錬三郎賞を、2009年「オリンピックの身代金」で吉川英治文学賞を受賞した。「最悪」「マドンナ」「イン・ザ・プール」「東京物語」「サウスバウンド」「ララピポ」「沈黙の町で」「ナオミとカナコ」「向田理髪店」など著書多数。「延長戦に入りました」「野球の国」「泳いで帰れ」「港町食堂」などのエッセイでも人気を博す。

主な登場人物:

南千住署“荒川区元時計商殺人事件”捜査本部

落合昌夫(まさお)
妻 晴美
息子 浩志

警視庁刑事部捜査一課強行班第五係の刑事。大学卒、1年目29才。
・晴美 2年前結婚。墨田区の二間のアパート住まい。

警視庁刑事部捜査一課
強行班第五係7名

・宮下大吉係長、警部。 いかつい体躯と奥目の人相。“ゴリ長”
・森拓郎、警部補。情に厚くかって防犯課少年係。“タンクロー”
・仁井薫 離婚歴のある独身刑事。”ニール”の愛称。
・沢野久雄 巡査部長。生命保険会社から転職。真夏でもネクタイ。
・倉橋哲男 巡査部長。40前の若白髪。捜査の勘はピカ一。
・岩村傑(すぐる) 五係で一番若手。
・落合昌夫 

捜査本部の面々

・飯島刑事部長
・玉利一課長
・田中課長代理
・大場茂吉 南千住署古株の主任刑事、50代半ば。万年警部補。
落合昌夫とコンビを組む。

北海道礼文島事件関係

宇野ェ治
母親 良子
(よしこ)
継父 小宮正三

礼文島生まれの20才。少年刑務所にも入った窃盗癖のある、脳に軽度の記憶障害を持つ知的障害者。酒井寅吉の使用人。番屋に火を付け金品を盗み東京に。
・良子 香深地区でスナックを営む金にだらしない水商売の女、37才。
・継父 小宮正三 ススキノのキャバレーで働いていた良子と知り合い一緒に暮らし始める。当時ェ治5才。小宮に当たり屋として扱われ脳に障害受ける。

酒井寅吉 礼文島船泊地区の網元の一人。
赤井辰雄 礼文島の漁師。ヤクザ相手の博打の借金のある妻子持ち、25才。宇野ェ治を騙し殺す計画。
松村喜八 稚内、宇野ェ治の少年刑務所時代の保護司。
国井 稚内南署の署長、警視。
東京

姉 町井ミキ子
弟 明男
母親 福子

母親と簡易宿泊所と食堂“町井旅館”を営む。
・明男 東山会のチンピラ、20才。
・福子 父親は朝鮮人、日雇い労働者の元締めをしていた、ヤクザ。恐喝容疑で上野署に引っ張られ、留置所で死亡。警察を毛嫌いしている。

西田公彦(きみひこ)

山谷労働者連合会(連合)委員長、25才。警察相手に揉め事が起きたときはせ参じてくれる。
・近田弁護士 連合の顧問弁護士。

山田金治郎 元時計商、前科はないが真っ黒。社長引退後三女の娘婿実雄(じつお)が引継ぐ。
信和会 信田(しのだ)和三郎会長死後二代目信田義春の代、5人の本部長の内花村正一組長が実雄に近づき、拳銃密輸の共犯関係を再開。
立木 上野信和会の幹部。
喜納(きの)里子 沖縄出身の踊り子。
小森孝子 新宿歌舞伎町「パリジェンヌ」のホステス。
松井 中央新聞の記者。国家権力を敵視している。
浅草署

“鈴木吉夫誘拐事件”特捜本部
・長崎 捜査一課二係長
・浅草署堀江署長
・浅草署石井刑事課長
・浅草署細野

鈴木春男
妻 敏子
息子 吉夫

浅草所管内で豆腐屋「鈴木商店」(個人商店)を営む主人。
・吉夫 小学1年生、6才。

新宿署

“新宿歌舞伎町ホステス殺人事件”捜査本部
・坂本署長
・辻井刑事

東京地検

・成本検事 担当検事。
・早川刑事部長

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 東京オリンピックを翌年に控えた1963年、浅草で男児誘拐事件が発生した。事件を担当する捜査一課の落合昌夫は、子供達から「莫迦」と呼ばれる北国訛りの男の噂を聞く…。世間から置き去りにされた人間の孤独を描く、社会派ミステリの真髄。

読後感:

 北海道礼文島での宇野ェ治が赤井の手はずで番屋に火を付け窃盗を働き、東京に向かうも赤井の策にはまり死にそうに。やっと逃れて東京に着くも金に困り窃盗を働き食いつなぐ。
 しかし元時計商の山田金治郎宅での殺人事件の容疑者として追われることに。さらに豆腐屋の「鈴木商店」の小1、6才の吉夫ちゃん誘拐の犯人として、さらに新宿歌舞伎町のホステス殺しの犯人としても追われる羽目に。

 物語はそれらの事件に関わる警視庁捜査一課強行班五係の7名と南千住署の万年警部補の古参ベテラン刑事大場茂吉の活躍が描かれる。
 主人公は五係の大学卒の1年目の落合昌夫と大場刑事のようだが、もうひとりは犯人と思われる脳に軽度の記憶障害を持つ知的障害者宇野ェ治である。

 宇野ェ治の、昔のつらい思い出に触れる追求になると意識が飛んでしまい、何ら反応をしなくなる二十歳の若者に警察は振り回される。
 大場刑事との取り調べに次第に感化されていったり、地検の成本の荒療治で霧が晴れたェ治が最後に出た行動・・。
 落合昌夫の大学卒の新鮮な視点で誘拐された吉夫の生存は?居場所は発見できるのか?

 ラストの宇野ェ治を青函連絡船での捕り物に到るまでの宇野ェ治なる弱者の意地が悲しみを誘う。あの水上勉著の「飢餓海峡」を思い出させる雰囲気を感じさせた。


余談:

 舞台は昭和38年(1963年)、翌年に東京オリンピックを控えた時代。丁度来年東京オリンピックとなるのでタイムスリップした様な印象の話。従って当時の、電話の普及とか逆探知が認められなかった話とか、新幹線が未だだったので移動に時間を要したりと時代の変化を感じる。

背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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