奥田英朗著
                   『オリンピックの身代金』





                
2013-11-25


(作品は、奥田英朗著『オリンピックの身代金』   角川書店による。)

               
 

 初出 「別冊文藝春秋」(「ゆめの」を改題)2006年7月号〜2009年7月号
    (2008年1月号、9月号を除く)
 本書 2008年(平成20年)11月刊行。
 
 奥田英朗:
 1959年、岐阜県生まれ。プランナー、コピーライターなどを経て作家活動に入る。2002年「邪魔」で大藪春彦賞、04年「空中ブランコ」で直木賞、07年「家日和」で柴田錬三郎賞、09年「オリンピックの身代金」で吉川英治賞を受賞。著書に「最悪」「イン・ザ・プール」「マドンナ」「サウスバウンド」「町長選挙」など多数。


主な登場人物:
 
島崎国男
(24歳)
東大経済学部の大学院生。秋田の貧しい農家の出、長兄は家への仕送りをするために東京に出稼ぎ、飯場で亡くなる。夏休み、底辺の経験をするため兄の飯場に身を投じて東京オリンピック熱にある社会に反発を覚えて・・・。

須賀忠
(24歳)
父親 修二郎
兄 勝

東大を出て民放テレビ局に就職、芸能番組担当。
父親は警察庁で五輪警備の最高責任者。兄は大蔵省の上級職役人。千駄ヶ谷の大邸宅に住む。

落合昌夫
妻 晴海

警視庁捜査一課五係の刑事、警部補。
相棒の岩村(大学の後輩)と共に連続爆破事件を追う。

警視庁捜査一課5係の面々

係長 宮下大吉警部。
仁井薫警部補、森拓朗警部補、倉橋巡査部長他の7人。
課長 玉利、 課長代理 田中。

村田留吉 上野のスリ常習犯。列車の中で島崎国男から財布を盗み、捕まって国男に見逃されたことで知り合う。秋田出身、秋田空襲で5歳の息子を亡くす。生きていれば島崎国男と同い年。
羽田の飯場の人々

山新興業山田社長。孫請け業者。
米村 同じ秋田出身。

物語の概要:(図書館の紹介文より)
 
 昭和39年夏、オリンピックに沸きかえる東京。開催妨害を企む若きテロリストと警視庁刑事たちの熱い戦いが始まる。昭和が最も熱を帯びていた時代を、圧倒的スケールと緻密な描写で描き切るエンタテインメント巨編。

読後感:

 読んでいく内にこの作品なかなか緻密でよく描かれているなあと思えてくる。最初出てくる島崎国男なる東大生の今後の重要性が計り知れなかったが、犯人捜しでなく爆破犯人としての犯人像の裏が克明に描かれていることに好感を持てる気がしてきた。
 秋田の貧しい農家の出
兄が東京で家に仕送りをするため日雇いの仕事に従事しそして死ぬ。その後を追って自分が自ら労働者としての体験をすべく底辺の仕事を経験したいと身を投じる。

 かたや数ヶ月先の東京オリンピックがもてはやされ一部の上層の人間だけが享受するのに対し
下層の人々はその駒となって動かされるだけということに憤りを覚える。
 底辺の中では東大生いうことで誰からも期待され、山田社長や同郷の米村や塩野が面倒見よく振る舞ってくれる。

 ちょうど7年後東京で二度目のオリンピックが開催される。そんな中、再び同じようなことが起こるかも知れない予兆を感じて、非常な興味を呼び起こされる。
 この作品
吉川英治賞を受賞しているがなるほどこういう作品に授けられる賞なんだなあと。

 単なる犯罪小説でなく、底辺の人々、一方で若い警察官落合昌夫の行動、親が東京オリンピックで警備の責任者を務める警備本部の幕僚長の息子でテレビ局に勤める須賀忠の行動、さらに島崎国男の相棒ともいえる村田留吉との交流と登場人物の行動を詳細に描き、刻々と迫る東京オリンピックの開催へと時間が推移していき緊迫感を盛り上げる。
 物語の底に流れる著者の温かい眼差しのようなものを感じる作品で結構好きである。

   


余談:
 
 爆破犯人の島崎国男の像は良くないことをしている割に、憎まれることなくどこか素直で優しい人柄に好感を持ってしまったり。
背景画は当時のオリンピック、代々木競技場のフォトを利用して。
 

                               

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