初出 「別冊文藝春秋」(「ゆめの」を改題)2006年7月号〜2009年7月号 (2008年1月号、9月号を除く) 本書 2009年(平成21年)9月刊行。
奥田英朗:(本書より抜粋) 1959年、岐阜県生まれ。プランナー、コピーライターなどを経て作家活動に入る。2002年「邪魔」で大藪春彦賞、04年「空中ブランコ」で直木賞、07年「家日和」で柴田錬三郎賞、09年「オリンピックの身代金」で吉川英治賞を受賞。著書に「最悪」「イン・ザ・プール」「マドンナ」「サウスバウンド」「町長選挙」など多数。
東京の大学を出てUターン、地方暮らし。妻は家出1年。 ゆめの市役所勤務。出張所に配属4月には県庁に復帰することを知る。 ・宇佐美課長 ・稲葉 ゆめの警察署生活安全課の刑事。人材交流名目で派遣されている。 ・西田肇(40代半ば)栄団地で母親と暮らし生活保護を受けている。吃音障害持ち。
久保史惠 親友 大塚和美
県立向田高校の2年生。大手予備校に通い、二人の目標は東京で女子大生になること。 商業高校の男子生徒がブラジル人の17歳の工員にナイフで刺される場面を目撃。
加藤裕也 (23歳) 別れた妻 佐藤彩香 (2人の子供を引き取っている)
向田電気保安センター勤務で配電盤の保守点検と称し、年寄りにインチキ商品を高く売りつけている。 別れた妻の佐藤彩香、生活保護を受けているが、締め付けが厳しくなり、裕也がひとりを引き取るハメに。 ・柴田先輩社員(24歳) 要領よく成績を上げている。 ・亀山社長(28歳) 元暴走族。
堀部妙子 妹 治子 母親 (80歳) 兄
1年前から地元の警備保安会社に私服保安員としてスーパーに派遣されている。万引きを装う万心教の人間に嵌められミスを犯すことに。母親が入院する。 ・橋本副店長
山本順一 (32歳) 妻 友代
町会議員2期目、本業は山本土地開発の社長。県政に打って出ようと目論む。 ・藪田兄弟 産廃業者。山本の支持者。 ・藤原平助 元町会議員。退職後も顔を利かして口出ししてくる。
読後感:
舞台は3つの町が合併して出来たゆめの市、そこに住む人々の生活。一見バラバラで関連のない展開が続いて、果たしてこの小説は何を目指しているのかと。それが中盤から個々の出来事に徐々に関わりが出来てきて緊迫感が増してくる。そんな時に図書館の紹介記事の概要を見る。なるほど群像劇かと。 そう思って読むとなるほどと。個々の生活では日常よくあることと思える事象が語られ、ごく身近に思える例もある。そんな所に共感しながら、後半になって行くに従い成り行きに引き込まれていく。地方の人間関係がある程度限られ、どこかでは顔見知りに出会うこともあり、そんな所が嫌で外に出て行ったり、東京に憧れたり。 市議会議員の顔で好い思いをしたり、引退後もそのうまみを引きずって幅を利かす人間。 悪徳商法まがいの出任せ商品で独り住まいの高齢者宅で言葉巧みに荒稼ぎをし、社内ではお互いを競い合わせて売り上げを伸ばす姿。はたまた女学生を誘拐監禁し、家庭内暴力、オタクながらの妄想若者、社会保険事務所の生活保護課で生活保護に関わる仕事をしている人、警備保安会社に保安員としてスーパーに派遣されている女性の姿など、まったく世の中の縮図を見ているようで、小気味よいというか、この先どう決着をつけてくれるのかと思いながら読み進む。 それぞれの事情でそれぞれの動きが発生し監禁、殺人さてその先に向かう所は・・・。 群像劇とはよく表現されている。
奥田作品を続けて読んでいる。「オリンピックの身代金」、「空中ブランコ」である。なかなかおもしろくそれぞれ違った意味で興味をかき立てられている。やはり賞を受賞していて、それぞれ吉川英治賞、直木賞受賞である。この後取り上げたいと思っている。