奥田英朗 『向田理髪店』



              2020-07-25


(作品は、奥田英朗著 『向田理髪店』      光文社による。)
                  
          

 初出 「小説宝石」(小社刊)
    「向田理髪店」      2013年4月号
    「祭りの後」       2013年11月号
    「中国からの花嫁」    2014年7月号
    「小さなスナック」    2015年2月号
    「赤い雪」        2015年10月号
    「逃亡者」        2016年2月号

 本書 2016年(平成28年)4月刊行。

 奥田英朗:
(本書による)  

 1959年岐阜県生まれ。2002年「邪魔」で第4回大藪春彦賞受賞。’04年「空中ブランコ」で第131回直木三十五受賞。’07年「家日和」で第20回柴田錬三郎賞受賞。’09年「オリンピックの身代金」で第43回吉川英治文学賞受賞。「純平、考え直せ」、「ナオミとカナコ」、「我が家のヒミツ」など著書多数。「野球の国」、「泳いで帰れ」、「田舎でロックンロール」などのエッセイも魅力。

主な登場人物:

向田康彦(むこうだ)
妻 恭子
(きょうこ)
息子 和昌
(かずまさ)
娘 美奈
母親 富子

北海道中央部、かって炭鉱で栄えた苫沢(とまさわ)町に理髪店を営む、53才。
・妻の恭子 民生委員をしている。
・長男和昌(23才) 札幌の私立大卒、中堅の商事会社に勤務も、1年で家を継ぐと戻ってくる。26才で理容師になり、カフェを併設する計画。
・長女美奈(25才) 東京の服飾専門学校経てアパレル会社勤務。
・母親富子 79才、元気。父親は3年前80才で他界。

瀬川
息子 陽一郎

ガソリンスタンドを営む。おせっかいやき。
・息子陽一郎 家業のガソリンスタンドを継ぐ。スタンドに漫画本に特化した本屋さん併設計画。文化発信基地にしたい。

谷口修一
妻 敦子
(あつこ)

電気工事会社の社長。康彦の幼馴染み。口は悪いが気は優しい。
佐々木 町の助役として総務省から出向してきた官僚。
[向田理髪店] 寂れた町で理髪店を営む康彦。若者たちは町おこしに力。元同級生の「リタイアしたら田舎暮らし」の発言に康彦は猛反発。
篠田 康彦の元同級生。東京の大手広告代理店勤務。
[祭りのあと] 夏祭りを前に喜八老人が倒れて意識不明状態。息子は東京から来るも戻るに戻れず。祭りはやってくるわで持つのか。

馬場喜八
妻 房江

理髪店の常連客、82才。くも膜下出血で倒れる。

息子 武司
娘 佳子

・武司 東京で家を構えて1年に1回戻ってくる。
・佳子 正月に帰ってくる程度。正月は旦那の実家に。

[中国からの花嫁]

野村大輔
花嫁 香蘭

農家の長男、40才。中国から花嫁を連れてきた。
・香蘭 30才、

井本 農協の職員。大輔と同年代。
[小さなスナック]
三橋早苗 役場の裏に札幌から戻って来て小さなスナック「さなえ」をオープンさせた美人のバツイチのママ、42才。
スナック大黒のママ
桜井 役場の観光課長。観光ホテルの従業員の女の子に手出しの前科あり。
[赤い雪]
藤原 役場の地域振興課課長。映画「赤い雪」のロケ地誘致を勝ち取る。
[逃亡者]

広岡秀平
両親

向田和昌の2つ年上の先輩。東京で詐欺グループの主犯格として全国に指名手配され、逃走。被害者の老人が自殺。
中学では生徒会長務める程の優秀で活発な子供だった。
・母親は心労で寝込む。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 北海道。寂れてしまった炭鉱町。通りにひと気はないけれど、中ではみんな、侃々諤々。心配性の理髪店主人が暮らす北の町は、案外にぎやか。身に沁みて、心がほぐれる物語。

読後感:

 かって北海道の炭鉱町として栄え、今は寂れてしまった小さな田舎町苫沢(とまさわ)町で理髪店を営む向田康彦は、飛び込みの客は滅多に来なくて、予約は常連客頼み。
 常連客の瀬川はお節介やきで何事につけ顔を出す。もうひとりの谷川修一は、口は悪いが気は優しい。そんな人間たちに、滅多にない話題を中心に、小さな町のひとびとが、うっとうしい人間関係もあるが、底流にあるのは隠したくても、煩わしくても、みんな知れ渡り、なんとか町を活性化させ、息子や娘たち若者につないでゆきたい思いが。

 我が町の良さを改めて享受できる話題がいっぱい。
 向田理髪店の康彦はいちばん信頼されていて、バランス感覚が優れている。スナック大黒のママは年を取っているも、男達の憩いの場所。ところが札幌から戻って来て小さなスナック<さなえ>が店を開くと、男達は若くて美人の早苗の気を引こうと理屈をつけて通う。
 でもそこは、好きな男がいそうと分かると自然とスナック大黒に返ってくる。

 大輔が中国の花嫁を連れて来ると、なんとか歓迎しようと町中で計画するも、大輔は何故か避けようと。
 映画のロケを苫沢町に誘致したが、役場の地域振興課の藤原課長との間で諍いが起きたとき、向田康彦の取りなしに、後で藤原が康彦に感謝の気持ちを吐露する当たり、康彦はやはり信任が厚いことが証明される。

 我が町出身の広岡の息子が、東京で詐欺の主犯として逮捕状が出て、逃走。全国に指名手配され、警察やマスコミがこの町にも襲ってくると、康彦たちは広岡の家族を心配するが、若者達の行動は思いがけないほどの成長ぶり。この町は捨てたものじゃないことを実感する。

 作品に流れる田舎町の心意気、思いやりの心、みんなが心温かに暮らしていく様子が溢れていて、作者の温かみが伝わってくる。


余談:

 奥田英朗作品はこれまで「空中ブランコ」「オリンピックの身代金」「我が家の問題」「家日和」「我が家のヒミツ」など読んできたが、印象に残るのが伊良部一郎のハチャメチャ精神科医の言動。次いで家族を扱った極日常で起こりうる話の数々。
 制作年代的にはこれらの後に本作品の位置づけとなることを考えるとテーマが大きくなっているのかなぁ。

背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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