奥田英朗
    『空中ブランコ』
 




              2013-12-25


(作品は、奥田英朗著 『空中ブランコ』   文藝春秋による。)

              

 初出誌  空中ブランコ  「オール読物」平成15年1月号
     ハリネズミ   「オール読物」平成15年7月号
     義父のヅラ   「オール読物」平成15年10月号
             「教授のヅラ」を加筆改題
     ホットコーナー 「オール読物」平成15年4月号
     女流作家    「オール読物」平成16年1月号
 本書 2004年(平成16年)4月刊行。
 
 奥田英朗
(ひでお):(本書より)
 1959年、岐阜県生まれ。プランナー、コピーライター、構成作家を経て作家になる。著書に「ウランバーナの森」「最悪」「真夜中のマーチ」など。‘02年「邪魔」で第4回大藪春彦賞受賞。スポーツにも造詣が深く、「野球の国」「延長戦に入りました」などの作品がある。 


物語の概要:

 人間不信のサーカス団員、尖端恐怖症のヤクザ、ノーコン病のプロ野球選手。精神科医伊良部のもとには今日もおかしな患者たちが訪れる。怪作「イン・ザ・プール」から2年トンデモ精神科医・伊良部が再び暴れ出す。
主な登場人物:

◇ 空中ブランコ 最近相方となった内田との合いの手がうまくいかなく、失敗を繰り返す。精神科に診てもらうことになって・・・。
山下公平 新日本サーカスの演芸部員、32歳。空中ブランコのフライヤー歴7年のリーダー的存在の主任。
◇ ハリネズミ 先の尖った物にやたら恐怖を覚える誠司。親分の前で血判状を押すことになり・・・。
猪野誠司 渋谷界隈をシマとする紀尾井一家の若頭、32歳。尖端恐怖症に悩む。
◇ 養父のヅラ 義父のカツラを剥がしてしまいたくなる強迫神経症の男。その解決策は・・・
池山達郎 大学講師で付属病院の精神科勤務。5年前に現在学部長の一人娘野村仁美と結婚。義父の家に孫を見せに行ってもなかなか固ぐるしい。
◇ ホットコーナー 一塁への送球のコントロールが定まらなくなった名三塁手のノーコンの原因は?
坂東真一 プロ野球の東京カーディガンスのプロ10年目の名三塁手。
◇ 女流作家 小説を書こうとすると、過去に書いたことがあるネタなのではないかと不安で堪らない“強迫症”の作家は立ち直れるか。
星山愛子(ペンネーム) 都会派作家として“恋愛のカリスマ”として売れっこ、28歳独身。
☆ 共通の登場人物
伊良部一郎

“伊良部総合病院”の精神科の医師、100キロの巨体の持ち主。
何にでも興味を示し、ハチャメチャ的子供的精神の持ち主。

マユミ 精神科の看護婦。タバコをくわえ、無愛想でいてグラマラスな注射好きの看護婦。

読後感

 知らなかったが、各節に共通的に登場する伊良部医師と看護婦のマユミがいて、それぞれの主人公が現実の世の中にもいるかも知れない、ある日突然精神的な悩みを抱え、精神科の伊良部の元に訪れ、ハチャメチャなのか、根の所を指摘され、立ち直ってゆく物語である。
 これ以前に「イン・ザ・プール」で第1弾があったようだ。

 それはさておき、「空中ブランコ」では空中でジャップした公平をキャッチする相手の内田を、嫌がらせをして失敗させると思い込む公平の姿。それに対し全く頓着しない素人の伊良部の空中ブランコの姿とその結果。そこにあるものは現実にもあるこわーい人間の性か。

 なかでも読書好きの自分としては、「女流作家」の内容が身に染みる。
 ど素人の伊良部が作家になる夢を見て気軽に原稿を読んでよと差し出す。こんなことが出来るのも変人・奇人の伊良部だからとしても、星山愛子がスランプに陥っている時に彼女の友人中島さくら(フリーの編集者)が吐く言葉「順列組み合わせの恋愛小説を書くのに飽きたのよ。テイストは同じ。生活感がないのも同じ」が本質を突いていておもしろい。
 
 愛子の悩み「ライトな恋愛小説から脱皮したかった。魂の震えるような物語をかいてみたかった」が作家の満足感、評論家の評価それに世間で売れる本が一致しないことに、それぞれの悩みがあるのだろう。
 

  

余談:

「女流作家」で:
 作家の心得的な言葉「小説って、どうやって書けばいいわけ?」に「思ったことを、正直に。ただし客観的に」「筋はどうやって練ればいいわけ?」に「それより描写。大事なのは人間を描くこと」という伊良部と星山愛子のやりとりが読書をするにも大いに参考になる。
背景画は、本作品の内表紙を利用して。

                    

                          

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