荻原浩著 『海の見える理髪店』








              2018-10-25


(作品は、荻原浩著 『海の見える理髪店』    集英社による。)
          
  初出 「小説すばる」
     海の見える理髪店 2012年12月号
     いつか来た道   2015年10月号
     遠くから来た手紙 2014年1月号
     空は今日もスカイ 2012年3月号
             (集英社文庫「あの日、君とGirls」収録)
     時のない時計   2014年12月号
     成人式       2015年12月号

  本書 2016年(平成28年)3月刊行。

 荻原浩:
(本書より)
 
 1956年埼玉県生まれ。コピーライターを経て、1997年「オロロ畑でつかまえて」で第10回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。2005年「明日の記憶」で第18回山本周五郎賞、2014年「二千七百の夏と冬」で第5回山田風太郎賞を受賞。「冷蔵庫を抱きしめて」「金魚姫」「キブ・ミー・ア・チャンス」など著書多数。    

主な登場人物:

『海の見える理髪店』 海の見える理髪店での店主がお客に語る物語は・・。
店主 海の近くで、自分を知る人間が誰も居ないところで床屋をやる店主。
グラフィックデザイナーのお客。来週結婚式。
『いつか来た道』 16年ぶりに実家の母親の元に。この人とは二度と会わないと出て行ったが、その母は・・。
杏子(きょうこ)<私> 42歳、独身。昔画家志望の男と暮らしていたが別れる。
家族

・母親(逸子 イツコ)73歳。画家を目指していたが、挫折、絵画教室で子供に期待して・・、今は車椅子生活でアトリエでキャンバスと対峙。
・姉(蓉子) 私より2つ年上、中学の時交通事故で亡くなる。
・弟(充 
ミツル)結婚し、遠い町で暮らしているが、時々奥さんと子供を連れてこの家に帰っているらしい。そして姉に「今会わないと後悔する」と連絡してくる。

『遠くから来た手紙』 娘を連れて実家に身を寄せ、夫が迎えに来るのを待ち望んでいるも・・。不思議なメールに返信していたら・・・。

江藤祥子
(旧姓 椎名)
夫 孝之
娘 遙香

夫の孝之とは同じ中学に通っていて、同窓会をきっかけに30過ぎで結婚。最近は仕事仕事で・・・。実家に戻っても様子が違い、弟の嫁とは10以上も離れている。
静岡の実家

・母 嘉代子、60代前半。
・父 果樹園を経営。
・弟 辰馬 フリーのウェブデザイナーを止め、果樹園を手伝う。   嫁 麗亜、23歳。

『空は今日もスカイ』 家出をした二人の小学生が海を目指してたどり着いた先で起きたことは・・
佐藤茜
<シュガー>
小学3年生、8歳。2ヶ月前おばさんの家に居候。海がないので海を探しに家出。
森島陽太
<フォレスト>
首つり神社と噂のある近くに住む少年。茜と出会い家での暴力に家出。
『時のない時計』 父の形見分けの時計を修理に。見栄っ張りの父親の時計は果たして・・
貧しい生活だったが、父の形見の時計はゴウジャスなもの。
店主 89歳で死んだ父親とさほど変わらない店主。修理しながら語る歴史は。
『成人式』 15歳で亡くなった娘の成人式に、「このままじゃ、俺たち、だめだ」と計画したのは・・・。


妻 美絵子
一人娘 鈴音

システムエンジニアリング会社の営業職。娘と過ごせる時間は限られている。
・美絵子 4つ下の妻。
・鈴音 親バカ親父とも、15歳になると必要最小限の会話しかしなくなった。

郁美ちゃん 鈴音の中学時代の友人。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 もしも「あの時」に戻ることができたら…。誰の人生にも訪れる、喪失の痛みとその先に灯る小さな光が胸に染みる家族小説集。母と娘、夫と妻、父と息子。近くて遠く、永遠のようで儚い家族の日々を描く物語6編。      

読後感:

 どの作品にもラストの描写は作者の渾身が込められている表現がたまらない。3つだけ印象を載せることに。
<海の見える理髪店>
 外れにひっそりとある海の見える理髪店。予約式で客を取るが、てっきり難しく、むっつりとした店主と思っていたら、予想に反して、どんな客に対しても話題を絶やさないよう親の指導がされている。
 店主の語る歴史にはラストでそうだったのかと思わせる仕掛けがあった。ラストの言葉がひときわ印象的に読者に響いてくる。

<いつか来た道>
 年のせいか、こういう話題には身につまされる内容で、それまで二度と実家には帰らないと家出した杏子<私>の意志も、母親の姿を目にし、その老いを感じたら、思わず意に反した言葉が漏れてしまった様子に涙する。

<成人式>
 やはり若くして一人娘を死なせてしまった夫婦のその後の姿は乗り越えられないとダメになってしまうだろう。そんな中での解決に向けての計画が涙ぐましい。鈴音の友人郁美ちゃんの気立ての良さも微笑ましくて素敵。
 

余談:

 荻原浩の作品では「明日の記憶」が印象深い。アルツハイマー病の主人公、今回の「いつか来た道」では認知症の母親。
「明日の記憶」の著者の紹介にある“軽妙洒脱、上質なユーモアに富んだ文章には定評があり、行間に人生の哀歓が漂う。”は本作品にも当てはまる。
 

背景画は、森・木をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

           
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