緒川怜著 『霧のソレア』








              2010-08-25



   (作品は、緒川怜著 霧のソレア    光文社 による。)


                  
 

2008年(平成年)3月刊行。

緒川怜(おがわ・さとし):
1957年生まれ、東京外国語大学卒業。本書「霧のソレア」(応募時のタイトル「滑走路34」を改題)で第11回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞しデビュー。


主な登場人物:

高城玲子
(たきれいこ)

日本トランス・パシフィック航空の副操縦士。今回の73便の副操縦を担当していた。父親も名パイロットとして同社に勤務したが、パキスタン空港での着陸失敗事故で不名誉な評価を受ける。
塚田裕之介
(59歳)
鬼指揮官、玲子の父の親友。事故調査に立ち会うも、パキスタン側の報告に反対意見入れられず。今回のボーイング747 73便の機長、トラブルに巻き込まれ不慮の死を被る。
佐伯宏明 73便に同乗の航空機関士。
鳥越綾子 73便に同乗のアシスタントパーサー。

サグジェーエフ
(アレクセイ・ミハイロヴィッチ・サグジェーエフ)

ロシア人で核開発の科学者。全連邦物理研究所で重要ポストについていて、半年前共同プロジェクトの関係でアメリカに渡り姿を消す。核開発の犠牲で最愛の娘を亡くし、妻も悲嘆して自殺、核開発を憎んでいる。
ジェシカ・ブロック 外交官の長女、3年前中米ニカラグアに2ヶ月滞在、左派系シンクタンク主催の公開シンポでニカラグア人(エンジェルと名のる)と知り合い、荷物を成田経由シンガポールに運ぶことを頼まれる。サンディニエスタのシンパ。

エンジェル
(本名 カルデロン)

サンディニエスタの元戦士と名乗り、サンディニエスタの為に何が出来るか模索中とジェシカに近づくが。
石坂英一郎
(35歳)
通信社の社会部記者で航空記者。73便爆破テロ(?)の件で活躍。

補足1) ニカラグアの歴史抽出(本書より)
・1979年 40年以上にわたりニカラグアを一族で私物化してきた独裁者ソモサを打倒、革命政権を樹立。
・一方アメリカ政府はソモサの私兵集団だった国家警備隊の元隊員を中心に結成する反政府武装勢力を支援開始。
・1990年 革命後初めて実施の総選挙でサンディニスタ民族解放戦線は敗北し、政権の座から去る。
・その後16年間親米右派政権が続く。
(利益優先の新自由主義経済策で貧富の格差が拡大し、貧困層の不満が高まり)
・2006年 大統領選挙でサンディニスタ民族解放戦線のダニエル・オルテガ大統領が当選
(アメリカ合衆国はオルテガを追い落とす決意をする。)

補足2) サンディニスタとはスペイン語で“サンディニーノ主義者”を意味する。約80年前ニカラグアに侵攻した米軍に対しゲリラ戦を挑んで果敢に抵抗し、最後にはソモサの罠で暗殺されたアウグスト・サンディーノ将軍の名前にちなんだもの。
物語の概要:

 誤って仕掛けられた時限爆弾により、太平洋上を飛行中のジャンボジェットが大破。 機長を失うが、女性副操縦士の奮闘で飛び続ける。 しかし突然、通信機器が使用不能に…。 第11回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。 

読後感: 

 今度の小説では航空機に関する諸々のこと、南米ニカラグアの事情、管制に関する諸々のことを知ることとなり、未知の世界故になかなか面白く読むことが出来た。また北朝鮮の核兵器開発に関する内容も時節に関連していて深刻さがさらに増した。
 著者がどのような経歴の持ち主か知らないが、飛行機の操縦のこと、管制に関する実情、自衛隊の内部状況などよく調べたものと書き手のことにも関心がいってしまった。

 後半になると高城玲子が操縦するジャンボ機が霧の中妨害電波で管制との連絡もとれず、さらに4つのエンジンの内一つにしか燃料が残っていない極限状態に置かれて成田空港への着陸を試みる緊迫感、一方で無線妨害で民間機に乗ったロシア人の核兵器開発科学者を北朝鮮に行くのを阻止したいアメリカ政府の指令を受けたプラウラーが日本の領海内で工作する、これに対処する航空自衛隊との攻防と緊迫した場面が、場面をスパスパと切り替えながら進行するところにはワクワクさせられる。
 こんな場面は映画ではよく目にしたものだが、読み物として読んでその緊迫感を感じるのはなかったかも。
 いままで読んだものの中には航空機にまつわるものがなかっただけに新しい発見であった。


   


余談1:
 
 最近思うにメディアの報道内容がものの真実を伝えているのかどうかを思う。一方的かつ都合の悪いことは隠し、都合のいいことだけを伝えているのではないかと。はたまたその元の真実性は果たしてどうなのかと。
 この作品でもアメリカのやり口の裏を語っていることからも、真実とはどこにあるのか恐ろしいことである。 特に政治の世界、世界の出来事にはよほどの注意力が求められる世の中である。 やさしさや素直さだけで世の中はまわっていかないのがむなしい。

 
余談2:

 無線妨害という手段で最新の機械がまるで効力を失ってしまうという状況を改めて感じてしまった。危機管理のあり方をも示唆しているようだ。


背景画はテレビで放映された「ハッピーフライト」の飛行機の場面を利用。

                               

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