小川 糸著 『ファミリーツリー』



              2016-11-25



(作品は、小川 糸著 『ファミリーツリー』   ポプラ社による。)

          
 

 本書 2009年(平成21年)11月刊行。書き下ろし作品。

 小川 糸(本書より)
 
 1973年生まれ。
 著書に絵本「ちょうちょ」(講談社)、小説に「食堂かたつむり」「蝶々喃々」。
 ホームページ「糸通信」http://www.ogawa-ito.com

  

主な登場人物:


<僕><リュウ君>
(立花流星)
姉 蔦子
(つたこ)

昭和60年4月生まれ。
・蔦子は一つ上の姉、3月生まれ。
僕達は穂高(安曇野の中心部)の「恋路旅館」に間借りする居候。

リリー
父親
母親 翠
(みどり)

僕と多少血のつながりのある親戚。東京神楽坂に住む。毎年夏になると「恋路旅館」にやって来て、僕と蔦子とリリー三人で”ドリーム”という子供達専用の部屋で過ごす。蔦子と同い年。
・父親は輸入家具を販売する会社の社長。神楽坂に本妻の家庭を持つ。
・母親の翠さんは菊さんの娘。父の愛人。
正月には両家族でハワイに出かける。

菊さん
スバルおじさん

「恋路旅館」の女将。
・スバルおじさんは菊さんの息子(三男)。

犬の“海” 僕が小学生4年の時皆で夜景を見に行ったとき墓地でのオバケごっこで見つけた捨て犬の子犬。名前を“海”と。稀に見る礼儀正しい、思慮深い犬。
明雄さん スパルおじさんの幼なじみで仲よかった。ペンションの手伝いを頼む。
ゴボウ 沖縄の離島出身。僕が知り合いのない東京の大学に入学したとき、席が隣になったことで親しくなった友達。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 家族という木のてっぺんには、いったい何があるのだろう。美しく壮大な自然に囲まれた長野県安曇野。少年は「いとこおば」にあたる同い年の少女に恋をした…。命のきらめきを描き出す、渾身の一作。

読後感

 舞台が長野県穂高という山に囲まれたみるからに自然豊かでうらやましいほどの環境の中で、すがすがしくもみずみずしい少年から大人になっていく時間の流れで展開される青春のほろ苦い思いが詰まった切ない物語である。

 夏休みにだけやってくるリリーという女の子、物語の中では次第にその生い立ちが明らかになるが、僕と一つ年上の姉の蔦子と、蔦子と同い年のリリーの三人が「恋路旅館」のドリームという子供専用の部屋で過ごす時代の様子が本当にこの世の倖せいっぱいという感じが良く出ている。
 そこに入ってくる”海”と名付けた子犬の存在が僕とリリーの間をより親密につなげる感じでこんな子犬がいたらどんなにか嬉しいことかと思わせる。

 しかし、そんな夢のような世界ばかりが続くことはない。切なさいっぱいの刻がやがて訪れる。
 その時に示される菊さんの存在が大きいことが心に残る。菊さんの人生も、その時代のこともあるが少なからず辛いことであったろうが、そこを乗り越えて得たところが菊さんの人間を形作っているのだろう。

 僕とリリーの恋心の姿もほほえましかったり、女の強さを感じたり。
 大人になるに従い、リリーと僕の間には二人のいる世界がかけ離れてしまう。それは将来をしっかりと夢見ているリリーとただ優しさだけで頼りない僕、“海”のことを父親のせいとして父親を疎ましく思い、なんだか全てのことに生きがいを見いだせないでいる自分。果たして転機が訪れるのか。

 ゴボウの存在、スパルおじさんからの依頼、菊さんの死などを通して改めて松本の、穂高の自然が癒やしてくれる感動作品である。

  

余談:

 本の著者の紹介部分にホームページのアドレス記載がある。初めての経験。早速開いてみてそのシンプルさと幼稚(?)な挿絵に感心。また書き込まれている文章に親近感を覚える。
 最近の作品「ツバキ文具店」は図書館の予約がいっぱいで当分読めなくて残念。”ごあいさつ”で作品についての裏事情が記載されている。

 鎌倉が舞台の由縁とか、「ま」とは、人と人の間に流れる「ま」であり、時と時の間にふくらむ「ま」であったりする。そういう「ま」が、人間関係にも暮らしの中にも必要であるように思う。とか。
 小川糸作品を引き続き読んでみたい。

背景画は、清流をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

                    

                          

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