物語の概要:(図書館の紹介記事より。)
家族という木のてっぺんには、いったい何があるのだろう。美しく壮大な自然に囲まれた長野県安曇野。少年は「いとこおば」にあたる同い年の少女に恋をした…。命のきらめきを描き出す、渾身の一作。
読後感:
舞台が長野県穂高という山に囲まれたみるからに自然豊かでうらやましいほどの環境の中で、すがすがしくもみずみずしい少年から大人になっていく時間の流れで展開される青春のほろ苦い思いが詰まった切ない物語である。
夏休みにだけやってくるリリーという女の子、物語の中では次第にその生い立ちが明らかになるが、僕と一つ年上の姉の蔦子と、蔦子と同い年のリリーの三人が「恋路旅館」のドリームという子供専用の部屋で過ごす時代の様子が本当にこの世の倖せいっぱいという感じが良く出ている。
そこに入ってくる”海”と名付けた子犬の存在が僕とリリーの間をより親密につなげる感じでこんな子犬がいたらどんなにか嬉しいことかと思わせる。
しかし、そんな夢のような世界ばかりが続くことはない。切なさいっぱいの刻がやがて訪れる。
その時に示される菊さんの存在が大きいことが心に残る。菊さんの人生も、その時代のこともあるが少なからず辛いことであったろうが、そこを乗り越えて得たところが菊さんの人間を形作っているのだろう。
僕とリリーの恋心の姿もほほえましかったり、女の強さを感じたり。
大人になるに従い、リリーと僕の間には二人のいる世界がかけ離れてしまう。それは将来をしっかりと夢見ているリリーとただ優しさだけで頼りない僕、“海”のことを父親のせいとして父親を疎ましく思い、なんだか全てのことに生きがいを見いだせないでいる自分。果たして転機が訪れるのか。
ゴボウの存在、スパルおじさんからの依頼、菊さんの死などを通して改めて松本の、穂高の自然が癒やしてくれる感動作品である。
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