越智月子著 『咲く・ララ・ファミリア』
 

 

 

              2016-07-25



(作品は、越智月子著 『咲く・ララ・ファミリア』  幻冬舎による。)

           
 

 本書 2016年(平成28年)4月刊行。書き下ろし作品。

 越智月子:(本書より)

 1965年福岡県生まれ。女性誌のライターを経て、2006年に「今日の私は、どうかしている」でデビュー。他に「モンスターU子の嘘」「花の命は短くて・・・」「帰ってきたエンジェルス」など。

主な登場人物:


<森戸家の人々>

森戸幹夫(62歳)
元妻 葉子

不器用なまでに娘思いの父親。色恋沙汰におよそ縁のない男。その男が妻が駆け落ち後4年、突然結婚すると言い出す。
・妻の葉子は14年前、桐子の家庭教師山下哲平(13歳年下)と駆け落ち、当時46歳。「これからは自分の人生を生き直します」と柊子に書き置きして。

長女 橙子(39歳)
<ユズ子>
夫 航平
娘 桃葉(中1)
梅香(小5)
姑 和子
(73歳)

母親が家を出た時妊娠していてさっさと家を出る。
責任感なし、要領だけはずば抜け、面倒なことはすべて次女のあたしに押しつけ。見栄っ張りのユズ姉。

次女 柊子(36歳)
<シュウ子>

森戸家の主婦代わりで仕切る。独身。
頑なすぎるシュー姉。

三女 桐子(32歳)
<キリ子>

半引きこもり状態。翻訳家志望。
コミュ障のあたし。

四女 楓子(30歳)
<フウ子>

2年前から出版社で働く。1年前に家を出て一人暮らし。
空気より軽い楓子。

西園寺薫(39歳) フリーの翻訳家、初婚。
李さん 由緒正しい広東料理の“青龍苑”の店主。森戸家では行事ごとにこの店で食事をする。
館野啓之
(たてのひろゆき)
楓子の担当する雑誌“FleuR”の編集長。楓子と付き合っている。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

62歳になる父から突然聞かされた再婚話。その相手は、40歳の美しい男だった。母の出奔以来バラバラになっていた4姉妹。不完全な家族の一瞬の心の通い合いを描いた、書き下ろし傑作長編。

読後感
  

 62歳になる父親から打ち明けられた結婚話に、最初は22歳年下の女との思いに4姉妹の姉妹会議を計画。とりわけ家を捨てた母親に憤っていたシュー姉は、早々と家を出て行ったユズ姉に代わって主婦代わりをやって来た36歳にもなり独身、「好きで一人でいるんじゃない」と怒りまくり。

 シュー姉から「主婦の聖域に女がふたりいたら、悲劇よ」とこれまた火を注ぎかける。
 桐子から「知ってる、その人男だし」でどうなるこの話?
“青龍苑”での初めての顔合わせ、シュー姉以外は相手のイケメンの姿形に話が全然違う反応。 シュー姉だけは小姑を貫く。
 果たして西園寺薫は森戸家でどういう扱いを受けるのか。

 各章では柊子の非難ぶりが、桐子の変身ぶりが、橙子の憤懣が、楓子の災難がそして薫の受難が描写され、お互い言い合いながらも家族の形が内側からそっと現れてくる。
 四姉妹はそれぞれ個性豊か、共感するところも多々有り、特に主婦代わりの柊子の小姑ぶりと悩みが痛快であり、同情しきり。それに引きこもりの桐子が口が立たないけれど、いざという時の行動ぶりは頼もしい限り。薫が来て一番変わった人間である。

 薫が桐子のことを幹夫に「あの人は優しいね。言葉よりも行動でさりげなく気遣ってくれるところが、幹夫さんとよく似てる」と。
 家を出て行った別れた妻の葉子が、もしもどこかで偶然会うことがあったら、とっちめてやろうとずっと思っていた柊子に告げる「追いかけてくれて、ありがとう」の感謝の言葉、初任給で柊子が母にプレゼントした時計をまだつけているのを目にして柊子は・・・。

 なんとも涙が自然と溢れてくるようなシーンがたびたび。家族の物語である。

  

余談:

出だしのシーンは小津安二郎の「晩春」だ。浴衣姿の笠智衆と原節子が並んで座っている姿がローアングルで写っている。男やもめの父は娘の結婚を願う。婚期を逃しつつある娘も家事いっさいができない父を放っておけず、身のまわりの世話をしている。そんな父と娘の縁談をめぐる物語。ちょうど森戸柊子が原節子に、父親の幹夫が笠智衆という立場というところ。

映画の物語に反して父親から告げられたのは・・・。懐かしい笠智衆の名前に一辺に引き込まれてしまった。以前どこかで記したかもしれないが、自分が高校時代、漢文の先生が笠智衆と幼なじみで笠智衆のことを大根役者と評していた。でも年齢を重ねた笠智衆は素敵な味を醸し出していて大好きな役者さんだった。  

背景画は、清流をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

                    

                          

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