沼田まほかる著

                                 『九月が永遠に続けば』




                
2012-01-25
                                            



(作品は、沼田まほかる著『九月が永遠に続けば』 新潮文庫による。)

           
 

 初出 2005年(平成17年)1月新潮社より刊行。
 本書 2008年(平成20年)2月刊行。

 沼田まほかる:
 1948年大阪府生まれ。主婦、僧侶、会社経営を経て2004年(平成16年)「九月が永遠に続けば」でホラーサスペンス大賞を受賞してデビュー。作品に「彼女がその名を知らない鳥たち」「猫鳴り」。

物語の概要: 図書館の紹介より   

 
 最愛の息子の失踪直後、愛人の男が事故で死んだ。 もしかして、殺したのは息子なのか…。 綾辻、桐野、唯川の三選考委員が一致して推した、堂々の第5回ホラーサスペンス大賞受賞作。

主な登場人物:
 

水沢佐知子
息子 文彦

8年前雄一郎と離婚後、洋裁で生活をしているが、雄一郎から仕送りを受けている。
文彦がゴミを捨てにスリッパで出かけたまま行方不明に。
文彦は美術部。

安西雄一郎
妻 亜沙実
(旧姓 村瀬)
娘 冬子

荻窪の安西病院(精神病院)の院長。前の水沢佐知子の夫。
亜沙美:幼いときから不幸が重なる薄倖の女。兄と二人、数人の男に襲われ、車で連れ回されたあげく酷い目に遭い、精神的にも不安定に。安西病院で雄一郎の治療を受け、冬子を産む。
冬子:亜沙実の連子。犀田と付き合っている。
カレント女学院の1年生。

越智剛志(たけし) 文彦の担任、数学教師。30歳過ぎ独身。内向的かつ自虐的で典型的な殉教者タイプ(文彦評)。
犀田勉(さいだ) 自動車教習所の教官。冬子と付き合い、佐知子が教習所に通い始めると佐知子とも関係を持つ。駅のプラットホームから転落死する。
財布から冬子の写真が出てくる。

服部正雄
娘 ナズナ

水沢佐知子と別の棟の同じマンションに住む。ナズナと文彦が同級生であることから佐知子の家に手助けによってくる練馬駅近くで喫茶店を営む離婚歴のある自己顕示欲の持ち主。
ナズナは演劇部。

村瀬弓男

村瀬亜佐実の兄。ふたりが無頼漢によって車で拉致され、ひどい目に遭う。妹が安西雄一郎と結婚することに反対、冬子を引き取ることにも反対して日高市高萩に住む。

関崎路子
(カンザキミチコ)

ナズナの級友。ちょっと風変りな少女。ヘンテコなラブレターを書くくらい文彦のことを好いている。虚言癖がある。
音山亮太(りょうた) 犀田の郷里の1年後輩で犀田のルームメイト。自動車販売店のセールスマン。冬子と付き合っている。

読後感:  

 ホラーサスペンス大賞なるものを受賞している本作品、確かに異常な所があるけれど、何故かホラーとか、この世のものとかと異なる事象を扱っているとは思われず、すごくまともなもののように思える。余りホラーとかいう作品は好まないのだけれど、何となく雄一郎という人物を除いては納得がいく人物である。

 そして大賞に選んだ選考委員の女性たちが言うように、描写、表現が実に的確で読者を引き込む力を備えた作家であるなあと感心した。
 一種宮部みゆきの作風を感じる心理描写を思わせるなかなかな作家と見た。

 水沢文彦の失踪事件、犀田のホームでの転落事故の犯人、不運な体験から不幸を呼び寄せるような亜沙実という女性、その子の冬子の存在、ミステリー的にもなかなか真相が闇の中での展開は謎に包まれている。
 最後まで果たしてどうなるのかわからずじまいで・・・。
 描写の中にはグロテスクと評される部分もあるが、それほどどぎつく感じさせないのも好感が持てる。その辺は計算されているのかも。

余談:

 解説の千街昌之氏による本書についての表現で 「 現代人の孤独と屈折しを描いた本書は、古代から現代までを貫く日本人の精神史について考えてみたくなるような、不思議なサスペンス小説 」 との評がおもしろい。
 そして本作品がデビュー作で受賞当時56歳と。 そのことも作品の奥行きを醸し出しているのかも。

背景画は舞台になった団地の様子からイメージして。

                    

                          

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