貫井徳郎著 『乱反射』



                
2013-09-25




     (作品は、貫井徳郎著 『乱反射』    朝日新聞出版による。)

                 
 
 

 初出 「週刊朝日」2007年8月から2008年10月に連載。
 本書 2009年(平成21年)2月刊行。

 貫井徳郎:(本書より)

  1968年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒。93年、第4回鮎川哲也賞最終候補作となった「慟哭」が、予選委員であった北村薫氏の激賞を受けデビュー。2006年、「愚行録」で第135回直木賞候補、09年、「乱反射」で第141回直木賞候補となる。主な著作に「失踪症候群」ほか症候群シリーズ、「転生」「さよならの代わりに」「追憶のかけら」「夜想」など。
 

◇ 主な登場人物

加山聡(さとし)
妻 光恵
息子 健太

新聞記者、会社勤務10年。
1週間の休暇で家族旅行計画、妻をいさめながらも悪いと思いながら、家の生ゴミをサービスエリアのゴミ箱に捨てる。自身は“ゴミ屋敷”を取材していながら。
妻の光恵は嫁・姑の仲が好ましくない。
聡の母の息子への過剰な愛情が追い打ちをかける。
健太 2歳の息子、風の強い日街路樹倒壊被害にあう。
デスク 海老沢

田丸ハナ(50代)
阿部昌子
佐藤和代
(48歳)
静江 

ボランティアが生き甲斐。道路拡幅計画で街路樹が伐採されるに反対して・・・。小太りの体型。
阿部昌子 家の前に高層マンションが建つことに反対するも疲れ気味。田丸ハナの憂さ晴らしの話し相手。
佐藤和代 押しの強さ、騒々しい女。阿部昌子と生活レベルは似て、田丸ハナのお嬢様感覚をバカにしている。
静江 英会話教室で知り合い、自然保護に賛同する。市議に知り合いがいると・・。

三隈幸造
妻 菊江

定年退職をした60代の男。やることとしては子犬の“クマ”の散歩。腰痛で犬のフンの始末が出来ず、気が咎めるが樹の元にそっと放置し去る。
妻は夫の定年を機に喜々として習い事に興じている。

安西寛
雪代可奈

虚弱体質の大学生。病院が込むため夜間救急病院を利用している。
雪代可奈 同じ大学の法学部学生。一般教養授業のノートのコピーを頼んだことで知り合いになるも・・・。

足達道洋(34歳)
   (みちひろ)
妻 泰代
息子 生後8ヶ月

石橋造園土木勤務。樹木の検定し。
最近度が過ぎた潔癖症に悩む。
社長 石橋

小林麟太郎 市役所の道路管理課の若者。フンの始末の苦情処理にはプライドが傷つけられる。

榎田克子(21歳)
妹 麗美
(16歳)

デパート勤務。妹に対し容姿、男友達、父とのうまい付き合い方など嫉妬。家の前は交通量が多く、車庫入れに不安を持っている。車の運転もうまくなく、妹が大きい車に買い替える話にむかついている。
久米川治照

正規医師でなくかけ持ちアルバイトの内科医。夜間診療も最近の忙しいのが苦。救急患者の受け入れには不安を持っているので、風邪引き程度の患者が多いので内心喜んでいる。
看護師 羽鳥


物語の概要図書館の紹介文より 

幼い命の死。報われぬ悲しみ。遺された家族は、ただ慟哭するしかないのか。複雑に絡み合うエゴイズムの果て、悲劇は起こった…。罪さえ問えぬ人災の連鎖を暴く、全く新しい社会派エンターテインメント。

読後感:

 物語の半分以上のスペースを割き、色んな人の生活模様が展開される。果たしてどういう背景を設定して行こうと試みているのか期待をして読み続ける。
 事件が起きる。そして被害者の夫であり、新聞記者である加山聡が気持ちのけじめを付けるため、事実を洗い出していく。すると浮かび上がってくるのは今までに登場した人物たちの関わりがそれぞれ小さな責任感の欠如が積み重なって幼い子供の死に繋がった不運としか言いようのない事件に、やるせなさと疲労感、絶望感で被害者を打ちのめす。

 一番の責任者は一体誰なのか?責任を感じた人間が逮捕され、その他の人間は、自分は責任はないと言い逃れをする。やるせないのは被害者の夫婦だけなのか。
 逮捕されたのは一番気の毒としか言いようのない人物。
 でも、最後に気づく、自分が息子を殺したのだと。果たして夫婦の気持ちは立ち直れるのか? 


余談:
 
 小さな無責任(モラルの欠如)の輪が次々に重なってある時突然ひずみがどこかに現れる。世の中には不条理なことが多い、そして知らず知らずのうちに己もどこかで気づかずに、あるいは気がとがめながらも過ちを犯している。極ありがちなことがひずみとなってどこかに現れる。そういう被害者になった時の己は果たしてどうやった立ち直れるのか。いつ我が身に降りかかってくるかも知れない。
 三隈幸造の妻菊江の発した言葉「あなた、晩節を汚しましたね」が痛烈に聞こえる。はたして自分は死ぬまで清く正しく生きられるものなのか。

 

      背景画は、本書の中での話題、夜間救急病院をイメージして。

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