貫井徳郎著 『 慟哭 』




                
2011-07-25


     (作品は、貫井徳郎著 『 慟哭 』    創元推理文庫による。)

                 
 
 

 本書 1999年(平成年)3月刊行。

 貫井徳郎:
 1968年東京生まれ。早稲田大学商学部卒。1993年鮎川哲也賞に応募した本作でデビュー。
 「烙印」「修羅の終わり」「崩れる」「光と影の誘惑」「鬼流殺生祭」などの作品がある。


◇ 主な登場人物

佐伯
妻 美絵
娘 恵美子
(4歳)

警視庁刑事部捜査一課長、警視。 キャリア組。警察庁佐伯長官の娘の婿養子。 キャリア組としては異例の捜査一課長につく。
妻の浮気を機に別居、伊津子という愛人と付き合っている。

篠伊津子(しの) 今年30才、離婚歴あり。佐伯は2年付き合っている。
松本(彼) 娘を亡くし胸に穴があいている。 神を求めて信仰に関心を持っている。
丘本重雄 警視庁刑事部捜査一課第八係、警部補。 佐伯よりも一回り年は上。 幼児誘拐事件の捜査本部に招集され、東日野署の北岡巡査部長と組んでいる。
石上恒也 警察局警務局監察官、警視。 佐伯の2年先輩のキャリア組。
甲斐健造 警視庁刑事部長、警視長。 自分の昇進は佐伯のおかげである。

物語の概要図書館の紹介文より

 連続する幼女誘拐事件の捜査は行きづまり、捜査一課長は世論と警察内部の批判をうけて懊悩する。異例の昇進をした若手キャリアの課長をめぐり、警察内に不協和音が漂う一方、マスコミは彼の私生活に関心をよせる。こうした緊張下で事態は新しい方向へ!幼女殺人や怪しげな宗教の生態、現代の家族を題材に、人間の内奥の痛切な叫びを、鮮やかな構成と筆力で描破した本格長編。

読後感:

 今回の作品、構成に驚かされる。 偶数の章(段落?)と奇数の章で異なる物語が展開されていることに。しかも奇数の方はどうも児童誘拐犯人の行動と推測される点である。
 只疑問に思われることは奇数の章の時点が数ヶ月ずれていることそしていつのことかが記されていないことに違和感を覚えつつ。 そしてラストになってその謎が忽然と明かされる。

 非常に危険な物語の展開のさせかたではなかろうか。 それがきちっと決まってしまったところにこの作品の面白さがある。 解説を読んでみても作者の力量が感心されていることでもうなづける。
 なかで新興宗教のことが描写されているが、何か雲の上の絵空事でこんなことに夢中になる人がいることを改めて認識することが出来た。


余談:
 余談のテーマに苦しんだ。何も浮かんでこない。そういえば児玉清著の「あの作家に会いたい」にフォトエッセイの作品「イカ干しは田舎のに匂い」(武田花著)が二人の作家からお薦めの作品としてあった。手にしてみるとそのフォトがありふれた場末の風景(ネコが好きらしくネコのいる風景、荒れ果ててツルがまとわりついた場所とか)が白黒でその雰囲気がすっきりと映し出されていて、こういうことに感性が働くひとなのだなあと思い、この作品を薦める作家もなんとなく理解した。何かきっかけがあると余談のテーマが浮かんでくるのも面白い。
 

          背景画は、作品とは関係ないが、新興宗教団体の宗教法人世界真光文明教団の本座を参考に。

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